社表

セックスレス・性の不一致

 煌きを失った夫婦生活・性生活は倦怠感・性 の不一致となる人が多い、新たな刺激・心 地よさを付与し。避妊方法とし用いても優 れた特許取得ソフトノーブルは夫婦生活で の性の不一致を改善し、セックスレス及び セックスレス夫婦になるのを防いでくれま す。 

イケない女は不幸だと思う

表紙本村上美香34歳/ホテトル嬢
●東京都出身。女子高卒後、簿記の専門学校を経て、自動車販売会社、食品会社、派遣会社、電機会社など勤務。26歳で整備士をしていた335歳の男性と結婚、しかし、姑との不仲、夫の暴力が原因で27歳で離婚、子供なし。
●現在、黒人男性と交際中、黒人が好みそうなセクシーな服に、化粧も茶系を基調としたいわゆる「シスター系のファッション」をしている。眉は全部描き、髪は黒髪にきついスパイラルパーマ、外見は派手だが、とても物腰は柔らかく礼儀正しい。育ちがいいのか、それとも一般社会での生活が長かったせいなのか、ホテトルの仕事をしながらも、どこにも擦れた印象が見当たらない。

イケない女は不幸だと思う

赤バラお客の待っているホテルに行って、部屋に入るじゃない。それでまず、こう言うの。
「25(ニーゴー)じゃマグロだょ」
 ほとんどの男は表情変わるよね。で、続けてこう言うの。
「35(サンゴー)から4なら普通のセックスできるよ。五万出せるんなら、それ以上だけど…。どうします?」って。
 だいたいの男は四万ですよ。本番したくてホテトル呼ぶんだからさ。お金ないんだったらヘルスに行くでしょ。安いんだから。
 高いとか何とか、金の事でゴチャゴチャ言う客だったら、私の方から「逆チェンジ」しちゃってとっとと帰って来ちゃう。ダルイじゃない? お金出し渋るなんかロクな奴いないからさぁ。
 風俗を始めたの? えっと、三十三歳のときかな。いちばん最初はソープ。でも半年ぐらいで辞(や)めてた。なんで辞めたかというと、ソープの仕事は私にはきつかったから。忙しい店にいたからかもしれないけど、今の仕事の方がラク。

お金も自分の器量次第でいくらでも取れるし(笑)。若い子の「若さ」にはかなわないけど、私はキャリアの分だけ口が達者だからさぁ。ヤルことは変わらないんだから、だったら多くお金貰ったほうがいいじゃない?
だから、お店の値段なんかあってないようなものなのね。いまの店に移って半年ぐらい。ホテトルの仕事は二年くらい、かな。

 でも、二十八歳のときにテレクラに電話して男の人にお小遣いを貰ったりしていたから、そのときが私の風俗初体験かも。私にとってテレクラも風俗と一緒なのね。そのときも、最初っから全然抵抗なくて、逆にお金貰えるからニコニコしていた。だって、高校のころからテレビで「海外旅行が当たります!」とかやっているのを見て、「いいなぁ、でも、売春すれば行けるよなぁ」って考えたから。初体験も十五歳で済ませたし、売春には抵抗なんか微塵(みじん)もなかったんですよ。そういう感覚があったからすんなり風俗の仕事ができたんだと思うの。

 そんな考えを持っていても、プライベートではかなり奥手でしたね。「好きな男の人の前でオッバイを見せるなんて。とてもそんな恥ずかしいことできない。絶対ヤダ!」って感じで。男の人にヘンな風に見られたくなかったんでしょうね、そのくせ、売春には抵抗がなかったんですよ。だって、買うような男の人とは二度と会わないだろうから、見られてもどう思われても知ったこちゃないし。

 今でも仕事とプライベートのセックスは、はっきり違いますね。仕事のときは客の顔が自分の顔に少しでも近づいたら「うっ」ってなるし、気持ちいい顔して声出しながらも心の中で舌を出している。頭の中が時計になっていてて、「今四十分ぐらいだから、もうそろそろイッてもらって、私が先にシャワーに入って…・」そんなことしか考えていない。逆にプライベートではニタニタしてて、自分から男にベタベタしてる。この仕事をしてからプライベートのエッチに変化? ないですね―。全然依然かわらず、仕事とは完璧に切り替えていますから。まぁ、客のときも彼氏のときも気持ちイイときは感じますけど、ち、いうことは、セックスに関しては仕事もプライベートも一緒ってことか? いやいや、気持ちの入れようが全然違いますよ。気持ちの入れようが。

 でもね、ちょっと前まで私だけじゃなくってみんなイケないんだと思っていたの。友達とそういう話題になった時があって…・。もうイキまくり。イッタことないのは周りで私だけだったの。それからかな、悩み締めたのって。だって、オナニーでもイッたことないないんだよ、私。やってみたことはあるだけど、自分で触ってもちっとも気持ち良くないんじゃないって思う…・んだけど、どうやらそういう考えもやっぱり私だけだった。
 それを知ったら男の人かわいそうになっちゃって。一生懸命汗かきながら腰振って、ず――っと私のまんぞう(女性器の事を彼女はこう言った)を舐めているのに・・・・・。

 もちろん、こっちは声を出すし、感じているふりもするんだけど。すればするほど私ってどんどん乾いてくるのね。終(しま)いには動かすたびに軋(きし)んできちゃう。もうそうなったら男の人にはバレバレでしょ。
「コイツ声出してよがっているけど、全然濡れていないじゃん」ってなってくるんだろうし。

 でもしょうがないじゃない。全然気持ち良くないんだから。前戯(ぜんぎ)のときは「いいじゃんいいじゃん」ってなって気持ちいいんだけど、いざ挿入ってなると高ぶっていたものがイッキに急降下するんだよね――。もう入れられると同時に「早く終わってよ」って気持ちになっている。いっつもそうだから私も悩んじゃって、いろいろ試したこともあったのね。まめ(クリトリス)を舐めると少しは気持ちイイから、そこを刺激すればイケるかもって。男の人に「そこじゃなくて違うところだと思うんだけど―。

ここをこうやって―」とか指示だしたりね。でも、あんまり効果はなかった。色々チャレンジすればするほど虚(むな)しくなって、ますますブルー入っちゃったのね。

 でもね、この間、彼氏としていた時に入口で「じん」ときたのね。もうそのときはすごい感動した。ああっ! これが『入口で感じる』ってやつね―!」って。でも、その感動も束(つか)の間。動かれたらダメになっちゃったけど‥‥。
 セックスするときには、男の人に対して「どうにでもして―!」状態なのに、潜在意識のどこかで、「ダメだぁ!」っていうマイナスイメージが、多分働いちゃうんだろうね。
もしかしたら、男の人に対して心を許していないのかも。

「自分の隠されたもの」をさらけ出すのがセックスじゃない? それが嫌なのかも。
 何でそう思うのかって? だって、こんな仕事しているのに今まで客に自分の身体見せるのって、やっぱり抵抗あるんだ。さっき言っていたことと矛盾(むじゅん)しちゃうけど。
 この世界にいる子って、普通の子からすれば「自分の身体に自身がある女」って見られるけど、ちっともそんなことないのね。「私の体みてちょうだい」なんて、絶対思わないし。できれば「見ないで、触らないで」って思っているし。

 それはお客でも彼氏でもかまわない。男の人って極端な話、女とセックスさえできればいいわけじゃない。セックスするのを拒(こば)むとそれで怒り出すし。女は黙って足開いていればいいってことでしょう? 仕方なくってしているようなものね。だからといって、一人でいるのも寂しいし。
 あっ、今、思い出した。そうだ。前に一回だけイッたことがある。お客さんが持ってきたバイブでしたとき。まめ(クリトリス)をずーっと刺激していたらイッた。でも、それが本当に「イッた」のかは疑問なんだけど。

バイブって言ってもキティちゃんのマッサージ器だったし、少しだけ「ピクン」って体が痙攣(けいれん)しただけだったから。痙攣の気持ちイイ版? はたして本当にイッたのかな? そのことを友達に報告したら「あんたそれイッたうちにはいんないよー」って大笑いされました。でもそれを聞いて少し安心したのね。だって、キティちゃんに“初イキ”をされたなんて‥‥、哀れ過ぎるじゃない?

◆彼氏は黒人

今の彼氏? 黒人。ネイビー。でも、私、黒人じゃなくちゃダメ! ってわけじゃないのよ。たまたま今は続いているけど。そんなに外国人は多くない。十五人ぐらいかな? だいたい一回限りが多い。あれ、そんぐらいだったかな? ヤバイ、記憶をたどるとどんどん数が増えてくる(笑)。
 初めて外国人としたのは二十八歳の頃だったのね。ということは、私は二十八歳のときに性に目覚めたってことになる(笑)。テレクラで“売り”を初めてやって、外国人と初めてやって。もしかして、それまで心の中に潜んで溜まりすぎたものが爆発しちゃったのかもね。

なんか、いろんなことを経験したかったのかも。自由を求めてというか。だって、それまでの私の生活は親と旦那に囲まれて我慢ばかりの生活で。親の前でも旦那の前でも、誰の前でも私は「いい子」でなくちゃいけなくて。

だから極端かもしれないけど、体を売ったら、体を売れたから、自分の固い殻(から)を破って自由になれたんだと思う
 外国人初体験の黒人とは、横須賀で知り合って。最初から横須賀で遊んでいたわけじゃないのね。そのころ働いていた派遣会社の同僚の女の子が「横須賀に遊びに行ってみたい」って言ってて、私も詳しいわけじゃなかったんだけど、その子は上京して間もなかったから案内してあげたの。その子、全然可愛くないし、全然あか抜けない子だったんだけど、そういう世界に興味があったみたい。
 それでその子と横須賀に行ったとき、電話の使い方がわからなくって。普通に町に置いてあるタイプのものじゃなかったから、行きたい店に電話をかけられなかったの。その困った時にたまたま近くを通った黒人に助けを求めたら助けてくれた。それがキッカケでその黒人の彼の連絡先を交換して、二回目に会った時にしたの。

でも、今思うと多分、その女の子が一緒にいなかったら、私はそのままお持ち帰りされて彼に食われてた(笑)。
 外国人とするのは初めてだったから、どういうことをしてくれるんだろうなぁ、って好奇心で一杯だったから全然怖(こわ)いっていうのはなかったのね。で、やっぱり日本人とは全然違(ちが)くって。彼の膝に上に私は乗っけられて、耳元でささやきながらジワリジワリと服の脱がせられって。

服の脱がせ方からまず違う。そして抱えられてベッドに入って…・もう、とにかく仕事がよかった。それで私は、「そっかー、ブラザーというものはこういう仕事をしてくるのか、いいな」って思ったの。外国人初体験がそうだったから、みんながそうなのかと思ったんだけど、違っていた(笑)
 やっぱりそういうところは外国人でも個人差があって、日本人と変わらない。

でも、やっぱり優しさが違うね。優しさの質というか、やり方の違いというか、女をお姫様のように扱ってくれるというか。決定的に違うのは言葉と態度。例えばエッチが始まる前に上から下までマッサージしてくれるし、部屋で映画を観ていても隣でマッサージしてくれてるし。いつもどこでもケアしてくれて、自分が大切にされているのがわかる。
足が汚かったら私よりも先に気がついて拭いてくれるとかね。
 でも、自分の女にはそこまでするけど、遊びの女には「まんぞう一回借りただけ」の使い捨て状態で。扱いがすごく極端なのね、それにブラザーって自分勝手だから自分のことを全部正当化するし。優しく見えるけど本当はとても心の中は冷たい、クールなのね。みんながそうなのか、個人的なものかわからないけど心がすさんでいる。物事を素直に観れないし、人を平気で傷つけるし。

人が傷ついて泣いてようがオレの知ったことじゃない、だしね。日本人みたいな思いやりは持っていないような気がする。
 ブラザーは精神的には嫌いだけど、体がねー、もうなんとも言えない! 奇麗なんだよねー。裸見ちゃうと見とれちゃうもの。でも、私も歳だから、もうそろそろ見合い結婚でもしようかって考えているのね。恋愛結婚だと一回失敗しているからね、私。

◆結婚

結婚生活? 一年で終わっちゃった。同棲生活は長かったけど。五年ぐらいだったかな? その同棲生活も、きっかけは親への反発で。うちってすごく厳しいのね。厳しいのも、他の家とは少し違って、親っていうより父親が、なのね。典型的な昔の家。お父さんの言うことはたとえ間違っていようと絶対で、お母さんをはじめ姉と私も言いなりで。生まれてきたときからそうだったから、厳しいのがあり前だって思って育ったの。

 でも、大きくなるにつれて私だけ父親に反発し始めて家の中では外れ者になっちゃったの。私がそうなっても母親は勿論、二歳年上の姉ちゃんは「いい子」だから、父親の言いなりで。家にいてもすごく居心地が悪かった。それでも、高校を出て親に言われたから簿記の専門学校に行って、ちゃんと卒業して自動車販売会社に就職したの。

その会社に勤めながら三年くらいは家にいたんだけど、やっぱり我慢しきれなくなって家を飛び出しちゃったの。それで、職場で知り合ってつきあっていた、のちに旦那になる整備士のところに転がり込んで。そのとき彼は東京で一人暮らししていたんだけど、私が転がり込んですぐに彼の親の事情で山梨に行くことになったのね。私はどうでもよかったから、会社を辞めて彼について行くことにしたの。

 この話を聞くと大恋愛してたみたいでしょ? でもね、最初から旦那ことはあんまり好きじゃなかったのね。いる場所が他になかったから「しょうがない。コイツといるか」って感じで。とりあえず一緒に住んでいれば雨風もしのげるし、生活はできるから。でも、常に「私がいるべきところはここじゃない」って思っていた。

この場所、山梨じゃないし、この男じゃないしって、もし籍を入れることになって「夫婦」っていう関係になっても、「私はいつか離婚するんだろうな」ってずっと思っていたし。
 なんで私が思ったかって言うの、きっかけは全然なかったのね、浮き沈みもなく、ただ淡々と生活してていつの間にか時間が経っていたって感じで。でも、彼の母親が結婚しろってうるさくてうるさくて。私もあんまり深く結婚って言うのを考えていなかったから、結婚の申し込みに「ああ、そうね」ぐらいの気持ちで答えちゃったの。

 一応籍を入れる時に親に報告したのね。そうしたら猛反対。結局、最後まで認めてくれなかったし、式にも来てくれなかったのね。何で父親が反対したかっていうと、旦那の両親が離婚しているから、っていうたったそれだけのこと。
どこの馬の骨だかわからないし、財産も持っていない。娘がかわいから、そんなところに行かせたら苦労するのが目に見えている。月に二十万程度の安月給じゃ生活できるわけない、って。

 それでも、結局、結婚することになって。おまけに姑さんのおかげで、嫌いだったんだけど式まで挙げることになっちゃって。わびしい式だった―。旦那の親戚関係しかいないんだもん。ホント、あの結婚って、私達のためじゃなくって姑さんのために籍も入れて式も挙げたようなものだったんだよね。

 結婚しても、しばらくは前と変わらない生活を続けてて。でも、せっかく結婚したんだから「お金を貯めて家を建てよう」って二人の目標を立てたの。だから、生活費は私の給料から出すことにして、家の頭金のために貯金は旦那の給料から回すことに二人で決めたのね。

 しばらくして、何かの拍子に旦那が「おまえのほうが給料がいいからなぁ」って言い始めたのね。予想もしていなかったその言葉に私は唖然(あぜん)としちゃって。
 旦那がいままで隠していた本心を聞いてから「ああ、男の人ってそういう風に思うのなんだ」って感じ始めて。

それまでの私って男の人に気を遣って接していたのね。たとえ自分の夫であろうと。育った環境からも知れないけど、それが私にとって普通に男の人への接し方だったの。でも、旦那の意外な本音を聞いてから私の中で何かが変わり始めてきたの。

 その頃からな。旦那の暴力がエスカレートしていったのって。前からなかったとは言わないけれど、まだ許せる範囲で収まっていたから。何でそうなっていったかは未だに疑問なんだけど、今思えば私の中で変化が態度に出ていたのかも知んない。

 結婚二か月目ぐらいからかな。ちょっとしたことで反応して、私がなんか言葉を発するだけでキレちゃってボコボコにされる日々になっていたの。そんな状況になって一番つらかったのは身体の痛みじゃなくて「選択を間違えたんだ」っていう事実。つまり、親に敷かれたレールじゃなくて、生まれて初めて自分自身で作ったレールを走り始めたのに、それがとんでもないものだった、ということに気づいたのがショックだったの。

 愚痴をきいてくれる友人はたくさんいたのね。でも、無条件に味方になってくれる親代わりはいなかった。だからと言って親に泣きつくのもカッコ悪かったのでしたくなかったのね。その溜まったストレスを発散するために、私は一番罪のない方法を選んで物に当たってたのね。そうしたら旦那が「お前は物を大事にしない!」って言い始めて、姑さんにそのことを言って。しまいには旦那と姑さん、両方からなにかにつけ責められるようになって旦那の暴力も益々エスカレートしていっちゃったの。

 そしてある日の夜、いつものごとく些細なことでケンカになって旦那にボコボコに殴られたとき、もうほとほと自分が惨(みじ)めになって旦那に思いきり殴り返したの、もう、そのときに自分の取った行動はハッキリと覚えていないの。

記憶があんまりないっていうか。断片的なんだけど、かすかに覚えていることはといえば、旦那を殴り返すときにすごい声で叫んでいたこと。ううん、「吠(ほ)えた」っていうほうが正しいかも。
もう、すごい声。どうやって自分から出たんだかわからない。そのときはもうすでに正常な人間の状態じゃなかったんだろうね。頭の中は真っ白だし。
涙流しながら無我夢中で手足を振り回してて、“ダダっ子”状態だったんじゃないかな。もう二度とあんな自分になりたくないって今でも思う。だって、あんな姿の自分もあったのかとって知ってすごくショックだったもん。

 それから、財布だけ持って家を飛び出して近所の友達の所に逃げたの。夜中の二、三時頃だったかな? 翌朝になって会社を辞めさせてもらう電話をして。もう、その時には実家に帰ることしか頭になくて、とてもじゃないけど遠くて山梨に通勤はできないから。二度と旦那の顔なんか見たくなかったしね。

 離婚して改めて、親の言うことが正しかったって思ったの。反発してた自分が恥ずかしいのと、親に対して悪いことをしたなって。だから家に帰ってしばらくは親の顔をまともに見れなかったなぁ。なんか、後ろ暗くって。

 あんまり子供に歩み寄らない親だったんだけど、そういうときになって母親が昔の父親の事を話してくれたのね。母親は父が若いころ、女遊びとギャンブルに狂っててずいぶん苦労したんだって。だから自分の娘たちそんな苦労を掛けたくないから自分が認めた男と一緒になってもらいたかったんだって。その話を聞いてすごくビックリしたのね。
母親がウソついているんじゃないかと思った。今の父からは想像もできないことだから。でも、母親の話を聞いて思い出した。よく考えてみれば、父親がうるさいく言っていたことって主に男関係だったなぁ、って。

◆人生、仕事、風俗、横須賀

そんなふうに親のありがたみが解っても、やっぱり古い家だから、一度家を出た人間は歓迎さなくて。結局、姉ちゃんの結婚を機に家を出て行かなくっちゃいけなくなったの。家を出てひとり暮らしを始めたのが二十七歳ぐらいのときだったかな。

 それから卸会社の事務に二年間いて、電機メーカーの事務、コンピュータ会社に半年ぐらいいたかな。横須賀に遊びに行き始めても普通の会社に勤めてたから、遊び友達の間では浮いていたかもしんない。だって、横須賀で遊んでいる女の子ってみーんな「風俗」で働いている子たちだったから。

 最初は不思議だったのね。だって、周りの会話を聞いてても「今度二ヶ月くらいアメリカに行って、その後、バハマに寄ってこようかって思っているの」とかで。それに皆、私と違って、連日横須賀に来ている人たちばっかりだったね。なんで皆そんなにお金と時間があるのだろう、すごいなぁってびっくりしちゃった。

でも、皆が何でそこに毎日集まるのかは行ってみると解るよ。だってあそこは日本でも異次元の世界で、毎日違うものとか人が入ってくるところだから全然飽きないし面白いことがいっぱいだし。
それに何よりも「生」の英語が聞けるから楽しくって仕方がなかった。中学校で習ったときから好きだったのね。英語。
横須賀に行っていれば必然的にどんどん英語が話せるようになってくるし、英語を話せて外国人と平気に会話できるようになっていく自分が自分でも面白かったし、違う自分になっていくようで楽しかったの。だから、最終的には自分も友達がどんどん増えていって、横須賀にハマちゃったんだけど。
 でも、一回横須賀に遊びに行くと、交通費とか飲み代とかいくら切りつめても一晩三千円はかかるのね。週一ぐらいのペースにしておけばよかったんだろうけど、結局毎日行くようになっちゃって。そうなると私みたいなOLの給料じゃ、とてもじゃないけどやっていけない。少なくとも私にはキツかったのね。でも、一日行かないと皆の話題について行けなくなっちゃうし…。
 それでどんどん生活が派手になっていって全然お金が足りなくなっていったの。

 最初はテレクラでたまに売春をやりながら会社の給料で生活していたんだけど、結局、全然お金が足りなくなっちゃって。それで会社を辞めてソープに行って、身体がついていけなくって今のホテトル。いい歳して遊びのお金が足りなくなったからって親のスネはさすがにかじれないじゃない?

 お店選びには全然困んなかったわよー。だって、周りの友達全部が先輩でもその道のプロだったからね(笑)。それからなんだかんだって言ってこの仕事をやって二年になるけど、もうそろそろ辞めようって思っているの。なんか、生活のリズムが違うっていうか、合わないっていうか‥‥。やっぱり、私は普通の昼間の仕事の方が性(しよう)に合っているんだと思うの。

朝起きて夜寝ての生活が。夜型になってから身体が壊れまくっちゃって。まあ、いつまでもやっていることもないし「この仕事向いていないかも」って思い始めたら仕事する気がなくなっちゃって。親の事を考えるといつまでもふらふらしてらんないし。もちろん、結婚してもこの仕事をしてたことは絶対に言わないつもりだけどね。

(普通の)仕事を辞めようって考え始めたキッカケって、生活の事だけじゃないの。誰だって自分のペースで仕事をしたいものじゃない? 気分が乗らないときは仕事休みたいし。この仕事ぐらいでしょう? 自分のペースでできるのって。やっばり、一般社会ではそんなに甘えなんか通用しないし。風俗の仕事が長い友達なんか「ふつうの仕事に戻ることはできないし、戻るのが怖い」って言うの。

風俗だと自分の居場所があるけれど、外にはないって言うのね。確かに、一個人全ての人格を個性として認めてくれるのはこの業界の良さだから。でも、そのことを聞いて本当の意味で怖くなっちゃって。
 私、本当にこのままじゃ普通の生活に戻れなくなっちゃって。だから、こういう気持ちになった今だと思うのね。この仕事辞められるときって。

 だって、そうじゃなくてとてもじゃないけど辞められない。仮に生活は戻せるとしても、金銭感覚とかの精神的なものってなかなか直せないじゃない? それに仕事続けてたらどんどん自分の身体が、仕事のための道具に過ぎなくなってきちゃうだろうし。
今日で辞めます、はい、明日からは好きな人のためにだけの身体ですって、そんなに簡単に戻れるかがすごく心配になってきちゃって。やっぱり一番怖いのって習慣になることでしょ?

 なんか、こんな仕事をすればするほど自分でイクことを抑えているようで。もう時間が経てばたつほど、お客を取ればとるほど、イクとかイカないとかの問題じゃなくなってくるだろうし。確かにこの仕事はお金はいいかもしんないけど、あまりにも失うものが多すぎるじゃないかって。
 私だって女として生まれたんだから皆と同じに、せめて子供を産むまでにはイッてみたいからさぁ。
つづく イッたことなくても「性の不一致」でも母親になれるもんねえ鈴木真子 三十七歳/ソープ嬢