口論を防ぐもう一つの方法
キャシイとボップの場合――
妻、役員アシスタント、子持ち。
夫のボッブが帰宅する二十分前ぐらいに帰って、子どもの世話や夕食の支度をてんてこ舞いでするのですが、夫は帰ってきて事毎に威張り散らかしたり、非難し始めます。
キャシイのストレスに対しる耐久度は限界です。
口論を防ぐもう一つの方法を紹介しましょう。キャシイのケースは上手く言った方法です。
「ボッブはだいたい六時ごろには仕事から帰って来るんです。私は彼が帰る二十分前ぐらい前には帰れるんです。帰宅してから、言うことを聞かない二人の子供の世話や、手紙を郵便受けから獲ってくるとか、夕食の支度をするなど、てんてこ舞いしている最中に帰ってくるわけです。
すると、やたら威張り散らして、何もやっていないとか、間違ったことをやったとか非難し始めるのです。
汚い言葉で、私を罵(ののし)るのですよ。“なんで、子どもの玩具を庭に放ったらかしているんだ?”とか、庭の芝刈りをやらせた近所の子供を“ちゃんと監督しないから、あんな下手な刈り方をするんだ”ってね。
そこで、“まあ、気を静めてください”ってなだめるんですけど、だめなんです。激しい言い合いになっちゃうんです。
このような、あまり根拠のない非難によって、キャシイのその日のストレスに対する耐久度が限界に達します。
彼女は会社の役員のアシスタントをしているので、いい給料をもらっています。報われる仕事であると同時に、かなりきつい仕事です。
多くの時間やエネルギーを必要とするので、育児や家事の方がおろそかになり、そのことでいつも気が引ける思いでいるのです。
ですから、夫と同じように、彼女が一日の終わりには疲れているのですから、彼女もサポートが必要なのです。
〈刺激をコントロールする方法〉
キャシイには、先に紹介した〈消火法〉や〈認知的モデリング〉も実行するエネルギーの余裕がありません。
そこで、私は〈刺激をコントロールする方法〉を進めるわけにしたんです。この方法では、「もう、負けたわ」といった言い回しを用いることを勧めます。
たとえば、こんなふうにやります。
何か事が悪化しそうな状況になった時に、あなたの反応をコントロールできないと判断した場合に、この方法を用いるのです。
つまり、事が悪化しないうちに、状況をコントロールする予防的行動をするのです。相手の考えや、ムードをコントロールすることができないにしても、口論に発展するような状況をあなたがコントロールすることは可能なのです。
たとえば、危機的瞬間が間違いなく起こると予想される五分から十分ぐらい前に、子供を連れて、ちょっと用足しのために外に出ます。
《これが、刺激的要素をコントロールすることになります》ストアに行ってミルクを買います。要するに、状況を静めるために、短時間でその場を離れるわけです。
危機的瞬間を通り過ぎるのを待つのです。
帰った時に、夫に、何処へ行ったかを尋ねられたら、真実を告げます。
事が悪化する状況に対する自分の反応をコントロールできないから席を外したと素直に言います。
たとえば、「帰宅し早々、怒り出すあなたにはどう対応したらよいか分からないのよ。だから、逃げ出したのよ」とか、あるいは、
「このことで少し話し合わなきゃいけなわね。まるで、家を追い出されたような感じを抱きたくないから」といった事を付け加えてもよろしいでしょう。
さて、あなた自身がこの方法をうまくできますと、夫の方も、あなたを真似て、この方法を応用する可能性が高まると思います。
仕事から真っ直ぐ帰宅して、自分のストレスのために家族に八つ当たりしないために、どこか寄り道しなければならないと考えるのは決して不健全だとは思いません。
途中、ヘルス・クラブに立ち寄って、エクササイズをしてから帰宅する、といったことは問題を予防するのには健全なコントロールのやり方でしょう。(ただし、バーなど一杯やってくるなどというのは、かえってストレスを加えることにもなりかねないと思いますが)
もちろん、このような《刺激をコントロールする方法》は、問題の確信を解決することにはならないわけですが、状況の悪化を防ぐという効果は明らかであります。
と同時に、双方にとって、ストレスや苛立ちの原因を理性的に見極めるきっかけにとなると思います。
つまり、余計な問題を発生させないための安全装置的な役割を果たすのです。
子供のようにすねる夫
キャシイとボップの場合―
キャシイには、夫の短気とは別のもう一つの問題の悩みがありました。
「私がなぜ外出したのかを説明したとすると、夫は、おそら「一晩中、すねていると思います」
「たとえば、どんなふうにですか?」
「そうですね。食事中、黙っているとか、一晩中、悲しそうな顔をしてテレビを見ているでしょうね」
腹立たしげにキャシイは答えました。
すねるという行為は、消極的攻撃性の典型的な例です。ちょうど、四歳の子供がクッキーをもらえるまで、口をとじ、息を止めているといった幼児的行為です。
こう言った行動が攻撃的であるというのは、そこに敵意の感情がこもっているし、また操作的だからです。
消極的であるというのは、何も言わず、すねているからです。このような消極的、間接的な表現によって敵意を示しているものですから、怒りを直接にぶっけられるより始末が悪いのです。
無視するのがいちばん
夫のすねる行為は、幼児的な行為が、妻の母性的反応を誘発するので、女性にとってはとくに対応がむずかしいのです。
いつの間にか、そういう夫を慰めてしまうとか、叱るとか、諭すなどと言った、子供にとるような対応の仕方をしてしまうからです。
そして、何をやったとしても、結局は、すねる(子供)に関心を注いでしまうことになってしまうのです。
結果的に、すねる行為を続けることがいいのだという考えを相手に与えてしまうのです。そこで、すねる行為に対するには、無視するのがいちばんです。
と話しますと、キャシイは苛立ちながら反問してきました。
「ということは、大きな大人がまるで小さな子供みたいに振る舞っているのを見ながら、一晩中、いやな気分で過ごさなきゃならない手わけですか?」
「おそらく、最初の二晩や三晩はスポイルされるのを覚悟すべきでしょうね。それが嫌なら、彼のするままに任せる他ないんじゃないですか? そして、彼の仕種に甘んじるほか道はないと思いますよ。
それに、そうすることで、彼はますますいい気になって、今までやってきたことを続けるという結果を招くことになるんですよ。とにかく、夫のすねる行為を無視することが、夫のためになるということに気がつき、母親のような反応は示さないようにする方がいいと思いますね。
そうすればすねたって無駄だというメッセージを夫に伝えることになるからです」
「おそらく、すねる夫に、私は黙っておられないと思うんですけど」
と言うキャシイのように、すねる夫に向かって何かを言わなきゃならないのなら、感情的にならないような方法で、あなたの怒りの感情を示し、対決したらよいでしょう。
夫の関心をあなたに向けさせるという効果はあります。と同時に、あなたの苛立つ感情が建設的な形で表現されることにもなります。
つまり、「私は怒っているのよ。だから、私の言うことをちゃんと聞きなさい」といったメッセージを発することになるわけですから。
この、理性的な形で怒りを表現するという方法は、一つの対決の手法です。怒りの感情の爆発という反応と、自己主張の反応の中間的な手法であると言ってよいでしょう。
表現法の一例として、「あなたがすねているのを、馬鹿らしくて見ていられないわ!」などは、効果がある言い方です。
ところで、このような方法で、怒りを表現する場合に、多少胸がどきどきしたり、声が割れることは覚悟しておいた方がよいでしょう。
いずれにせよ、結果的に、理性的に話し合えるようになったら、あなたにとっての問題を静かに話せるような心構えをしておく必要があります。
反して、効果がなく、夫のすねる行為がやまない場合は、前にも提案したように、その場を離れて外出するより手はないでしょう。
すねる夫に対応する方法として、誘導尋問的な質問を試みたけれども上手くいかなかった人もいます。
たとえば、「それじゃ、あなたが、明日、庭の芝刈り直してくれるんですか?」と、暗示的に言ってみたけれど、効果がなく、むしろ、悪い結果になったとか、おそらく、他の男と同じように、ぶつぶつ言いながら、ますます内に籠ってしまうのがせきのやまです。
代わりに、まず、自分の苛立つ心をコントロールしてから、もう少し一般的な質問をぶっける方法が効果的だと思います。
たとえば、「何かして欲しいことがありますか?」って。でも、夫が返事しなかったらどうしたらよいのでしようか?
その場を離れ、外出する正当の理由ができたのですから、躊躇せず出かけるんですね。
時には〈タイム・アウト〉も必要
夫の短気に対応するのに疲れ、どうしてよいか分からない時には、お互いしばらく〈休み〉をとり、なにか楽しいことをしたらどうかと提案してみるのもよいでしょう。
そして、その〈休み〉間は、言い争いに発展する可能性のある話題については一切触れないこととし、また、むずかしい問題については何も結論を下さないことを同意しておくのです。
かつていい関係であった時の楽しい経験を思い出し語り合うのも一つの〈休み〉期間にできるよい例でしょう。
双方の体を触れ合うことの喜びを味わうのもよいでしょう。
背中をさすり合うとか、髪をなでるとか、足の指をマッサージするなどといった、性器以外のところを触れ合うのも、心の安らぎをもたらし、心をお互いに通わせるといった効果があります。そして、〈休み〉の間は、議論をやらないという約束を守るように努めます。
他の方法もそうですが、相手が応じない場合には、この方法も実行できないのは言うまでもありません。
喧嘩に、相手が要るように、相手があって、はじめてお互いに楽しい時を過ごせるわけです。
つづく
適合性を高めるには?