煌きを失った夫婦生活・性生活は倦怠感・性の不一致となる人が多い、新たな刺激・心地よさを付与し。避妊方法とし用いても優れた特許取得ソフトノーブルは夫婦生活での性の不一致を改善し、セックスレス及びセックスレス夫婦になるのを防いでくれます。
          
―― そこまで言うかなんと、車の中での離婚宣言。それだけでも驚きなのに、とんでもない状況下でやってくれました。こんな時に、そんなこと言わんでもいいやろ、と彼女にそら恐ろしさえ感じました。私がフェミニズムになじむ前のことです。
           当時(1980年)、父と一緒に家業を営んでいた私は、支店を任されていて、妻に手伝ってもらい、夢をもって働いていました。子どもは五歳と三歳、人生これから、と気構えだけは誰にも負けないつもり、自身に満ち満ちていました‥‥。
          
           夕食も終わりくつろいでいた。
           後片付けしているユキ、なんだか近ごろ、考え込んでいる様子、一方的になんか不満があるらしい。倦怠期なのかと気になっていたのだが。
          ♂ あかん、甘かった・‥‥もうこんなことしていてもしゃあない。男は引き際も大切や。店閉めるわ。また一から出直す。
          ♀ そう、仕方ないね。
           そっけない、まるで無関心。
          〈なんやねん一体、愛想ないなあ〉
          ♂ せやけど心配せんでもええ、オレはやるから。こんなことぐらいで、参るようなオレちゃう。オレの力、信じといて。ガバッと儲けたるさかい、そのときは何でも買ったるって。
          ♀ いらないよ、なにも。
          ♂ そんな気にせんでええって。オレは別に、失敗したからって挫けるような男ちゃう。一回や二回、誰だって失敗はあるもんよ。
          〈すまんなあ、俺が参っていると思ったんやろう。それで気い使ってる。せやから、わざとそっけない態度取っているのか‥‥。すまんなあ、ほんまは参っている。それもかなり〉
          ♀ わたし働くから。
          〈うん? ‥‥・しおらしいこと言ってくれるやないか。今でも十分やってくれているのに。ほんまはこんなにも優しいねんなあ。ありがとう、俺、この家族のためやつたら、どんな苦労でも耐えていける〉
           子どもを見た。無邪気にテレビに見入っている。なんだか急に熱いものがこみ上げた。ジーンとくるではないか。たまらなく嬉しくなった。
          ♂ 手伝ってくれるやん、それで、もう十分や。ありがとう、気持ちだけもらっとくな。
          ♀ ???・・・・
           我に帰って見れば、ユキはキョトン、としている。
          〈? おかしい、何かが違う。まさか、そんなことない‥・〉
           予感が当たった。サバサバした口調だった。
          ♀ そうじゃなくて勤めるの。
          ♂ えつ?
          〈何でや? どういうことや?〉
          ♂ 勤めるって、他で働くってことか。
          ♀ そうよ、もちろん。
          〈ええっ―、それって、頼りないっていうことちゃうんか、この俺が〉
           カアッー 頭にくるではないか。
          〈そら今、たいしたことはないで俺は、けど、何のあてもなく働くって言わんでもええやないか〉
          ♂ ちょっと待ってえや、それってオレのこと頼りないってことなんか。
          ♀ ううん、そういうことじゃないよ、前から考えてたことよ。
          ♂ ??・・・・
           そういえば、もともと、『女だって仕事したいよ。どうして家で家事ばかりするのかわからない。私はそんなの好きじゃない』と、言っていた。
          〈そういや、言うとったなあ、そんなこと〉
          ♂ 女かて、働くことは大切なこと、そういうことやろ、それはそう思うよ。
          ♀ うん、それで明日面接に行くことになっているの。
          ♂ ええっ― 面接―
          〈あほか、そんなこと勝手に決めるな、誰が許した〉
          ♀ この間求人広告を見て就職申し込んだの、そしたらとにかく面接に来てくださいってことになって、だから明日行くね。
          ♂ ちょっと待って。
          ♀ どうして?
          ♂ そら、心配やわ。
          ♀ 何が?
          ♂ 何がって、そらいろいろや。
          〈わかっとらんなあ、また胸が苦しくなって来るやろ。会社にいったら、いろんな男おる。それがイヤなんや俺は‥‥そらカネは稼いでほしいけどな〉
           このころ、少しはヤキモチ収まっていた。どういうわけか私は結婚当初、すごいヤキモチやきだった。それがまた頭をもたげてきた。
          ♀ もう決めたの。
          ♂ うううう・・・・・・。
           ユキを見た。穏やかだが、すっきりした顔。こういうときは決断している時、ヘタに言うと機嫌が悪くなる。ここ半年ぐらい、どうもピリピリしている。何か気にいらんのか、さっぱりわからない。
           ここは控えめに、と騒ぐ心を鎮めた。
          ♂ そうか‥‥けど、なんで今そんなことを言うんかわからへんわ。必要なんか、そんなに働くことが。‥‥・子どもはどうするんや?
          ♀ どうするか一緒に考えてほしいの。
          〈考えるって、何を考えるんや。ったく。母親は子どもを育てるもんちゃうんか〉
          ♂ 子どもがかわいそうとちゃうんか。可愛ないんか、母親なんやからなあ。
          ♀ 二人の子どもでしょ?
          ♂ そらそうや、ようわかっているよ。せやから子どもの面倒ちゃんと見てるで。
          ♀ そうかなあ。
          ♂ 見てる、そら仕事で居てないときはどうしょうもないで、せやけど、それ以外はちゃんとフロにいれたり遊んだりしてる。男として精一杯やれることはしてる。
           言った後、なんだか急に、子育て云々なんて言われる筋合いはない、と、ムカッとした。
          〈何が言いたいんやったく〉
           むかつくままにユキを見た。
           と、そのとき、皿を洗っていた手がとまり、キリッした顔でこちらを見るではないか。私の小さな目でも、はっきりとわかる。ユキの顔がみるみる強ばっていく。
           鋭い眼光が私を睨んで離れない。
          〈怒っている、えらいこっちゃ〉
           ドキッ、ドキッっと胸が苦しい。長い瞬間だった。
           何が起こったのか理解できない。そんなに怒らすようなことなど何もしていないはず‥‥。やっとのことで目をそらした。
          〈浮気はしてない。賭け事もせん。ちゃんとまじめに働いている。俺が何をしたっていうのや〉
          ♂ オレ、今、仕事うまくいけへんから、滅入っているや。その話、別の時にしてくれや。
          ♀ いつ言っても同じちゃうの?
          ♂ うう…‥
          〈こんな苦しいときに、足引っ張るようなこと言わんといてくれよ〉
           このとき、「結婚は共同生活」って言ったことがアタマに浮かんだ。結婚する前から『変なこと言う女や』と、思っていた。が、今それがどういうことだったのか思い知らせらされた。
と、そんなことも言っていた。男、女に拘わらず、能力を発揮することは大切。それはそう思っていた。が、結婚したからには多少は私の考えも分ってくれた、と思っていた。
          〈嫌なことを言う女や、あーあ、もっと俺に頼ってくれる女やったらなあ。「結婚は共同生活」なんて誰が思うんよ。そんな男、世の中におったら逆立ちでも何でもやったろやないか〉
           ♂ 別に働いたらあかんて言ってないんやから、そんな恐い顔せんでもいいやろ。
          ♀ 今、就職しないともう雇ってくれなくなるわ。女は働こうと思ってもなかなか難しいのよ。年齢もすごく差別されるから。
          〈あほか、女でも能力あったら使わんかいな。俺やった使う‥‥− ハッハーン、そうか、それでか― 将来のこと心配してるのか。な―んや、それやったら大丈夫や、心配せんでもええで〉
          ♂ けど、それっておかしいなあ、力あったら年齢なんて関係ないのに。
          ♀ でも現実はそうなの。
          ♂ 間違っているなあ。でもいいやん、オレはユキのために一生懸命働くって。だから安心しといて、ユキが何歳になってもオレ離さんから。‥‥夫婦は一心同体なんやから。
          〈俺は愛しているんやで、心配せんでもいいから〉
           これで安心する、と思った。女は男に愛されるのが一番。 
           目の前にある幸せ、それはなかなか気づきにくいもの。そう思ったら急に目の前が明るくなった。余裕が戻った。
           と、そのとき、
          ♀ その言葉、わたし嫌い。
          ♂ ええっ?…
          〈好き嫌いで判断するな―〉
          ♂ 嫌いって、そういう問題とちゃう思うで。
          ♀ だったらどういう問題?
          ♂ 夫には夫の勤めがあり、妻には妻、母親には母親としての務めがあるんよ。それを崩したら家庭は成り立たんと思うんやけどなあ。
          ♀ しんどいのよ、それは。
          ♂ なんでやねん― そこが解らんねん。 男が男のことをして、女が女のこする、そんなもんが当たり前の事や。それがシンドイ言われたら、ほんなら、なんやねんや、結婚て。
          ♀ 男、男って言うけど、男がそんなに偉いの?
          ♂ そんなこと言うてないやないか。男かつて好きで仕事したいんちゃうで、それが男に与えられたことなんやからしゃがないじゃないか。
          ♀ おかしい? 男と女とかいうだけで決めつけるなんて。
          ♂ そらおかしいよ、だけどそうなっているねん。なっているものしゃあない。
          ♀ だったら変えればいいだけでしょう。
          ♂ そうや、オレもそう思うよ。ただな、オレが認めても世間が認めへんて、そんなもんちゃうんや世間ちゅうのは。こういう言い方、あんまり好きちゃうけどな、オレも。
          ♀ …‥。
          ♂ どうしたん? 急に黙って。
          ♀ …‥。
          〈ハッハーン、困っとる。ちょっと言い過ぎたか、さら悔しい気持ちはわかるけどな。まあ、もうちょっと辛抱しとき、俺の良さがわかるって。そのうちガバッと稼いだるさかい〉
           男と女とかもそれぞれ言い分はいろいろあるだろう。それはどちらに生まれても思うこと、言いだせばキリがない。私が精一杯がんばって出世すれば、ユキも働くなんてこと言わないだろう。と、思ったが‥‥。
          ♀ でも、別れたらわたし、困るやん。だから、今から働かないと。
          ♂ 心配せんでええ、オレは絶対別れたりせえへん。
          ♀ そっちからわね。
          ♂ ええっー…‥。
          〈何やて? どういうことや? 別れるってそっちからかー〉
           この時初めて「離婚」というのが現実味をおびた。その準備のために働くとは‥‥。
           ゴクッ、喉がカラカラだ。気がつけばキッチンをウロウロしているではないか。
          〈えらいこちゃ、どうしょ・・‥。ハッ、こんなとこ見せたらあかん。見くびられる〉
           だがどうしても足の揺れが止まらない。
          〈まずい…・〉
           あわてて冷蔵庫までいき、ドアーを開けた。
          ♀ ビール飲むの?
          ♂ えっ? うん。
          ♀ わたしも飲む。
          〈飲むの? 珍しいな〉
           信じたくなかった、女房がそんなことを考えているなんて、私にはあってはならないこと・・‥。しゃべろうとするのだか言葉が出ない、互いに黙ったままコップがどんどん空になっていく。
           現実味を帯びた離婚に、もはやヤキモチは消え、子どもの顔がガーンと浮かんだ。無意識に隣の部屋を覗いていた。
 どんなことでも耐えねば‥‥。この子たちから母親を奪うことなんて…‥。と胸がつまった。
           なにしろ「する」と言えば「する」女である。六年も一緒に暮らしていればそういうことは肌で感じるもの・・‥。
           私は折れた。この日は何とかなだめすかしてとどまってもらった。
           就職しない条件を提示した。『子どもが幼稚園を卒業したら仕事でも何でも好きにしてくれたらいい』ということで、なんとか思いとどまってくれた。
          〈そのうち俺が稼いで、ユキも子どもも安心して頼れるような男になったる、そうすれば何もかも解決するんや…たぶん〉
          
           そんなことがって半年も過ぎたころであろうか、とうとう店をたたんで、元の営業活動に戻ることになった。そして冒頭に書いた、車の中の出来事が起こった。
           支店の残品を積んだ車の中。私とユキ、私の父の三人がいた・・‥。
          ♂ まあ、今回は失敗やったけど、仕方がないわなあ、いろいろある、それが人生ってことかもしれん。
           誰ともなく、語りかけた。父は「失敗をいい経験と思い、めげずに頑張ればよい」というようなことをしきりに話していた。私は救われるような気持ちで、ユキに、
          ♂ ユキ、誰しも思うようにはいかんもんじゃで、みんなに与えられたシガラミのなかで、それでも何とか耐えながら一生懸命前向きに生きるんやと思うよ。
          ♀ そんなシガラミだったらわたし、いらない。
          ♂ えっ? そら誰だっていらんよ、くだらんシガラミなんて。せやけど逃れられへんからシガラミって言うちゃうんうか。
          ♀ シガラミって言うけど、自分で勝手に作っているだけでしょう。
          ♂ あほなこと言うな― そんな子供みたいなこと言うてて、何考えてるんや、ちょっとおかしいんちゃうんか。
          ♀ ・・‥。
          ♂ そら女も一杯したいことあるやろ。せやけど母親になったら子どもを育てる、それは女に与えられたシガラミよ。男は家庭を護るために下げんでもいい頭を下げる、そういうふうに拒否したくてもできん。それがシガラミなんよ。
          〈女房は女房としての役目がある、それをちゃんとしてくれたら後は何も文句ないんや。まあ、ちょっとはわかったやろう、俺が何でこんなにくどく言うか。家庭を護る、すべてそこからや〉
          ♂ まあ、もうこれ以上言う必要はないわなあ、考えたら誰でもわかることやから。ちゃうか。
          ♀ ‥‥。
          ♂ そうやろう、まだ考えてんの?
          ♀ 好きなこと言ったらいいわよ。
          ♂ どういうことや?
          ♀ 離婚や離婚―
          ♂ ええっー
           ドッキン、ドッキン、ドッキン…・、心臓が飛び出しそうだ。『ちょっと待ってくれ』と、言いたい。が、声が出ない。
           それから帰り着くまでの三十分、だれも何も言わなかった。私は言葉を失っていた。おそらく父も同様だったのだろう。
           ユキの言ったことに関して父は、以後ずっと、私にもユキにも何も語らなかった。おそらく、夫が妻から離婚と言う言葉を投げかけられる、などというこは理解できなかったのだろう。ただ、いともあっさり言ってのけたユキの姿は、言われる本人の私さえ、清々しく見えたのは、なんとも皮肉なことだ。
           「いらんシガラミなら、切り捨てればよい」というのがユキの生き方か。と、言うことは‥‥。
          〈しまった― えらいこっちゃ〉
           しばらくして事の重大さに気がついた。またもや後悔、しかし後悔さきにたたず。彼女とは半年間の別居生活となった。もっとも子どもの幼稚園を変えたくないという大義名分はあったのだが。
          
          つづく 10 男の暴力とやきもちと