男女平等というような、当時の私にはどうでもいいようなことに、嫌でも拘わらなければならない羽目になっていたのです。社会でフェミニズム云々は結構だが、なにも家の中でそんなことを言う必要などどこにあるのかトップ画像

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2 妻は午前さま ―浮気だけは許さん―

本表紙 

妻は午前さま ―浮気だけは許さん―

私が従来もっていた家族観は、夫が家族を養い、安定とやすらぎをもたらし、妻は家にいて家族の太陽のような存在になる――そんなものでした。そしてそれは見直す必要のない普遍的なもので、それで家族は幸せになれると信じていました。

 しかし意外なことに、妻はそれがしんどいというのです。しかも最悪なことだとも。なんということでしょう。そんなことを言われると、夫なら妻の常識を疑ってみたくもなるでしょう。

 ましてや、男女平等というような、当時の私にはどうでもいいようなことに、嫌でも拘わらなければならない羽目になっていたのです。社会でフェミニズム云々は結構だが、なにも家の中でそんなことを言う必要などどこにあるのか。「よそでやってくれ、よそで」と、閉口することしきり、とにかく納得できませんでした。

 前回のカレー騒動も、こんな時期に起こっています。ちょうど十年前ほど前のことですが、それは妻の午前様の帰宅に絡んだことです。

♂ オソイなあ、心配しててん。
 おかえりともいわずに不満がでた。当然のこと、とうに日付は変わっている。こつちは酒も飲まずに待っていたのだ。
〈何してんや、いまごろ。無事ならいいが〉
 とイライライライラ。友達と飲みに行くと言っていたのは承知だが…‥。
 午前一時過ぎ、辛抱の限界は越えた。思わず突いて出たグチ、
〈クソォ、心配させやがって。俺は明日仕事があるんや。あんたみたいにゆっくり寝ていられへんのや〉
 面と向かっていってしまおうか、と思ったときに・・・・・・ガラガラ、玄関の戸が開いたというしだい。
♀ ああ、起きてたん。ただいま。楽しかったわ。
 上機嫌でのご帰還。たまにだが午前様になる。楽しそうにしていればしているで面白くない。
 私の心配はどうなるのか。この二時間もの間にいろんなドラマを想像してしまっているではないか。
 と、突然やってきた激怒感。
〈ダメダメ、やめろ、ここでケンカすれば朝になる。寝る時間がなくなるぞ〉
 と冷静な心の声、すこしは成長している。雑草とまでは行かないまでも、野に咲く花ぐらいにはなっている。何とか自分をなだめ、日頃の考えを実践しようとした。
〈妻には妻の生き方がある、お互いの生き方を尊重しよう〉
 というものだ。
 ソウできた――と、思ったとたん、それを無視した言葉が出た。
♂ そら、楽しかってんやろ、ユキ― 顔見たらわかる。オレとはえらい違いや。
〈しまった。こんなことを言うつもりじゃない。違うねん〉
♀ ええ、待っててくれたの、ほんとお、ごめんね。ア・イ・シ・テ・ル。
 私の怒りなど知るよしもない、少し酔っている。
 アーン、オレも――といつもなら? したかもしれんが、きょうの私は怒っている。
〈心配していたのに電話一本もよこせ〉
 と、モヤモヤもやもや。
〈でも抱きつきたいなあ。ユキのやつ、やけに色っぽいやないか。ああつ? ‥‥ひょっとして―〉
♂ こんな遅いのは、困る、寝らへん。ユキは心配せんでもいいといっていうけど、オレは心配するわ。それがオレやねんもん、しゃあないやろー
 口ではそう言ったが、ほんとうは聞きたい。
〈誰と一緒やつたんや、みんなこんな遅うまで飲んでいられるんかー〉
 でも、そんなこと聞いたら、よけい寝られなくなるかもしれない。もうヤキモチなどやきたくもない。以前ヤキモチでえらい目に遭っているからだ。とにかく、
〈心配してしまうものは仕方がない、それが俺や〉
 ということだけは伝えた。それで何とかモヤモヤを解消しようとした。
 ところが、思わぬパンチが飛んできた。といっても拳ではない。
♀ 遅くなったのはワルかったわ、ゴメン。でも、わたしは自分の責任でしたことなの。だから寝ていてくれたらいいのよ。気にせずに。
 ガク然とした。もちろんそうだろう、あんたならそうだろう。とも思った。ところがそんなことを聞きたくなかった。なんかあったら取り返しがつかん――それが気がかりだ。
♂ あってからは遅いよ、何かが。だから心配するんよ。自分の責任でするっていうけど、どうして責任とるんよ―
〈こんなことぐらいどうしてわからんのか、あんたは女やで〉
 と、喉まででたが、かろうじて飲み込んだ。それにはワケがある。

 かってこんなことがあった。

「超ミニはいたら、下着見えてしまうやろう。歩きにくいんちがう?」と聞いたことがある。
「ううん、そなことはないよ、見えてもいい下着をつけているから」
 彼女の返事に、一瞬、そらそうだ、と思った。しかし、聞いたのはそんなことではなかった。
 見えてもいいものよくないもの云々でなく、そんなドキッとするような派手なスタルのことを言ったつもり。オトコ心の微妙なところをはぐらかされたような記憶が、まざまざとよみがえった。

♀ 危険と思ったらそれなりの対処をするし、安全な手段を考えるわよ。だって何かあって困るのは私しでなんとかするわ。
 やはりあの時と同じ、私の感覚は的中した。どうも何が違うらしい、このオンナと自分とは感覚がどこかで違ってくる。私は安心できる言葉を待っている。なのにいつも安心できない言葉が返ってくる。

♂ なんとかするって、どういうこと?
〈何とかしてほしいなんて思っていないよ。起こるようなことをせんといてくれ〉
♀ だって、私がしたいことをするのだから、その結果も引き受けるのは当然でしょ、だからその時に考えてするってことよ。
 後日談だが、ユキは《この人、何が言いたのかしら、ヘンな人》と不思議に思ったという。《自分がすることを自分が引き受ける、なんの不思議もない。どうしてあんたにグチャグチャ言われなければならないの》とも。おまけに、《やっぱり口では男女平等とか言っているけど、本音はそうしたくないんや》と。そしてその後が彼女らしい。

《もともと大して期待もしていなかったのだから、ま、いいか》と、

あっさり切り捨てたという。
 ムダな相手にムダなことはしないということらしい。かといって無理にその場を収めようとしない。あくまでも自分らしさでやってくる。となるとフツウのオトコなら、
「俺はそんなんイヤや」とつい怒ってしまう。
 私はこの部類だった。つぎの行動は、やはりそのようになった。

♂ そんなんいやや、オレはガマンできん、オレの惚れている女がそんなことになったら、わしゃたまらん。
 とうとう言った。瞬時に胸のつかえがとれた。が、つぎの瞬間、何とも言えない自嘲感に襲われた。
〈やっぱり俺はフェミニズムを受け入れられないのか。クソぉ、このオンナの言うとおりやのに、俺はそれをイヤがっている。なんでや、なんでや〉

 と、どうしょうもなくなった。言いたいことを言えば逆に自分の心を持て余してしまう。でも言うのを抑えられるほど優れてもいない。当時の悩みはここ。

 でも、不思議なことが起こった。抜き差しならない時って、とてつもないことを思いつく。

〈フェミニズムなんてクソくらえー〉

  開き直った。苦しくなれば、苦しみの元をとつてしまうおうとした。瞬時にして本来の姿に戻ってしまった。こうなれば元々きかん気の強い私、目の前のオンナと対等に渡り合える条件がそろった。
♂ オレは男や。男が「こうや」って思うことを、なんで女のあんたに『そうと違う』なんて言われなあかんのや。男にしかわからん気持ちつちゅうもんがあるんや、そんなこと言われる筋合いない―
  シャキッとした。だがどうしてか目は畳に向いたままで、面と向かっては言えない。言ってはみたものどことなく気が引けた。
♀ それってどういうこと?
 と、静かな、それでいてドスの効いた声で言うではないか。
 私はハッとワレに返った。
〈しまった、俺はいったい何を言っているんや、こんなことを言うつもりはなかった〉
 後悔したがもう遅い、こういうときのこのオンナは恐い、と心が憶えている。人は不思議なもの、触れてもいいものいけないものを、感覚的につかんでいる。何年も付き合いがあるから、ハッと我に返ったのだ。同時に冷や汗が出た。しかし言った手前おいそれと引き下がれない、何かキッカケがいる。

〈ええタイミングやなかったらあかん〉

 遅く帰って来ことはもう気にならない。それよりこういう言い合いになれば面倒だ。
 今までの経験で決まって、《わたしは自分で生きていく》と言っていた。
〈このままだったらまたああなる。ユキのすることにいちいち気にしていたら神経が持たん。何してもええやないか、本人がソウしたいなら〉

 以前からそう思っていたのに、結局はこういうことになる。タメ息が出た。自嘲心が出てきたのもそのせいだ。
〈おまえは何度も同じことを繰り返せば気が済むのか〉
 ユキはというと、ただ静かに私の言葉を待っている。沈黙のまま時は流れた。

 10分、20分・・‥。しゃべれない、何を言ってもしらじらしい。イイワケはしたくない、それもあってつい言葉が出ない。それにどこかに悔しさもある。
♀ 寝ないの? もう遅いよ。話がないのだったら、寝ません。

 淡々というではないか。別に私に何もないのだ。要求がないと何も困らない。私というオトコと出会って、しばらく彼女の生き方で寄り道をしてしまった。結婚とはそのぐらいにしか考えていない。ユキにとっては私との関係がすべてではない――数年後そんなことを言っている。このときは、《今日は楽しかったなあ》と、楽しいことを考えるようにしていたという。
 私はというと、

〈抱きたい、こんなんで寝るのはイヤや〉

 と思うのだが、それさえ口に出せない。言葉よりカラダで対話したい、私を愛していてほしい。その想いが高ぶった。
♂ 抱きたい、仲良くしたい。
 ビクビクしながら言った。
♀ わたし、今はそんな気になれないよ。
 言ったあと大きなアクビをするではないか。《なんで私があんたの気を静めるためにセックスしなければいけないのよ。そんなのいっこうもヨクないわ。わたしがしたいのはいいセックス、お互いの人格を認め合った関係なら私から求めてしまうのに、バカッ》

自分も相手も楽しめるセックスならしたい、

だがこんときに、どうしてそんな気になれるのか。《仲直りのセックスなんかアホらしい》と、バカバカしくなってしまったとは後日談。

 セックスまで断られ、もがけばもがくほどドツボへとはまっていった私。ところが、
〈フェミニズムってなんやなんや― 男にとってどんな価値があるんや〉
 と思い、ふと聞いてみる気になった。

♂ オレはフェミニズムはいい生き方やと思う。だけどしんどい。好きやから幸せにしてやりたい、でもそう思う分だけしんどい。これはいったいなんでや、教えてほしい。
 解らなければなんでも聞ける、そんなことが幸いした。急にパッと気が晴れた。

♀ 困ったことやネエ・・‥。それは苦しいよねえ。でも、なんともできないよ、わたしには、力になりたいけど。
 本人が悩みたいのだから大いに悩んだら、とまったく平気。
“フェミニズムは男の問題である”と考えてるからだろう。
♂ 力になりたくてもなれないという何か‥‥。自分で考えろということか。
〈わからんから聞いているのに、どうせえっちゅうんや〉
 もうこうなれば聞いても仕方ない。残された道はただ一つ。
〈う――ん、ええわい―考えるわえ、俺がアタマあるんじゃ、答えぐらい出せる〉
♂ 無理しているんやと思う‥‥。無理してユキに合わそうとしてるんや、そんな気がする。
〈俺はフェミニズムはどだい合わんのよ、やってみてわかった。しょせん女のもんよ、男がソウしようと考えたことがそもそも間違いや。もうやめよ〉

 答えは出た。出てみれば簡単なこと、何も無理して悩むことなどない。これが私の結論だった。こうなると気も晴々してくる。案の定、すっきりした顔で言った。

♂ やっぱりオレは自分らしく生きる。そうするわ。なにも無理していい子ぶりすることないもん。ユキもそうしているんやから、オレがそうしてアカンということないと思うわ。
 言いたかったのがコレだった。と言ったあと思えた。ユキも、そうね、と言う風に頷いている。そういう風にしているユキを、
〈ヘンなオンナだ〉
 という思いが一瞬脳裏をかすめた。
♂ なんか、サバサバしたわ。喉に引っかかっていたものがとれた感じや。
♀ あなたの思う通りに生きてくれればいいのよ。わたしもそのほうが楽だから。すこし楽になった?
つづく 3 なぜかイライラ ――フェミニストカウンセラーのとぼけた生活