本文へスキップ

セックスレス夫婦だって不倫や浮気は楽しいものだしロマンスがある。浮気性の妻や夫をどうあやせばいいのか、恋人の浮気疑惑が浮上したときはどうしたらいいか、恐るべき夫の言い訳の”ただのお友だち”をどう撃退するか?

トップ画像

第四章 「お金によって幸せになった人を見たことがありません」

本表紙 瀬戸内寂聴・瀬尾まなほ
 現在、婚活中という瀬尾さん。彼女の結婚の条件から、
寂聴さんの恋愛遍歴、
そして家族愛へと、話題はどんどん広がっていきました――。

〜愛して生きたい

「あなたから男性にすり寄って口説きなさい」
寂聴 エッセイも出して、テレビにも出るようになって、母校で凱旋講演まで果たして。あとまなほに必要なのは恋人とか結婚相手とか、要するに男ですよね。
 それほど運命が上向きのはずなのに、いまは男の影が全くない(笑)。私が気づいていないだけなのかしら。有名になっちゃうとね、男の方がやっぱり怖気づいてしまうのよ。それはもうしょうがないね。

まなほ 怖気づくって(笑)。私自身は、何も変わってないはずなんですけど。
寂聴 有名になってしまったからには、がんばって、あなたのほうからすり寄って口説かないとだめよ。たぶん男からアプローチしてこない。有名になればなるほど、自分からすり寄らないと。
まなほ すりすり、すりすりって?(笑)。
寂聴 まなほは利口過ぎるからね、たとえ付き合っても、相手の男たちがちょっと恐ろしくなるの。あなた感受性が強いから、相手の気持ちを先回りして読むでしょう、そうじゃなくて、もうちょっとボケたふりをして、すきをつくらないとね。
 しっかりしていて強そうですけれども、本当はナイーブで傷付きやすいまなほには、支えてくれる人が必要なの。それなのに支えなんかまったく必要ない女に見えてしまうのよ。
まなほ ・・・・・そうでしょうか。
寂聴 まなほは子供が大好きだからね、お姉さんの子供たちもかわいがっているし、やっぱり自分も子供を産みたいんじゃない?
 もちろん結婚しなくても子どもは産めます。でも、やっぱり結婚していたほうが育てるのも楽だしね。
まなほ 先生はご自分が家庭を捨てたり、不倫をしたりして、愛することの楽しみも苦しさも沢山経験したから、私にはそう言って下さるんだと思います。
 先生は、「不良とか悪い男のほうが魅力がある」とか「離婚は女の勲章」とかいつもおっしゃっていますけど、私には、そういう”茨の道”を勧めないですよね。でも私には幸せになってほしいというその気持ちは、本当にありがたいと思っています。
寂聴 あなたも、もう30歳になったからね、やっぱり真剣に考えた方がいいのよ。
まなほ 皆さんからいろいろ紹介していただいたり、自分でも努力はしているつもりなのですが、なかなか人を好きになれなくて…‥、いまどきでは珍しいのかもしれません。
寂聴 寂庵にも、たくさんの男のお客さんが来るじゃない。あなたは「賞味期限が切れた、爺さんばかり」って、文句ばっかり言っているけれど(笑)。
まなほ そんなひどいことは言っていないです! 「私よりちょっと年上」って言っただけですよ。
寂聴 あははは。

「孫の嫁にと考えたことがありました」

まなほ でも私が結婚して、秘書を辞めちゃったら、先生は寂しいと思ってくれます?
寂聴 別に。今日いなくなったって平気です。
まなほ え? ちょっと休んだだけですごく怒られるのに、それっておかしくないですか?(笑)。
寂聴 あははは、平気平気!
 私の孫に男のコが1人いたでしょう。実は、私はその孫とまなほが結婚してくれたらいいなとひそかに思っていた時期があるの。
まなほ そんなことまで考えていたのですか?
寂聴 だけど、彼はタイの女性と結婚しちゃったから、もうどうしようもない。
 きっとあのコも、まなほのことは嫌いじゃなかったと思うけど、タイのコのほうが、よりよかったんでしょうね。
まなほ まさか自分がお見合いをしているとは気づきませんでした。
寂聴 あのコは私の孫にしては男前だし、優しいコで、あなたを飲みに連れて行ってくれたりしていたから。あ、いいかも、と思ったのよ。
まなほ そうですね、とても素敵な方でしたけど、私と同じ辰年で、ひと回り年上でしたから、あまり恋愛対象として意識していなかったんです。いまはそのくらい年上でもいいかな、と思うようになったんですけど。
寂聴 けっこう条件がうるさいタイプだし(笑)。
まなほ そんなことはありません! 
恋愛相手として求める条件はたった3つだけです。
寂聴 へぇ、そうだっけ?
まなほ 1つ、優しい人。2つ、仕事を楽しんでいて、かつ仕事に対して情熱を持っている人。3つ、食べることが好きな人。・・・・あと1つは子供と犬が好きな人。
寂聴 いつの間にか、条件が4つになっているじゃない(笑)。
 子供はともかく、犬も好きじゃないとダメなの?
まなほ はい。うちは「よるる(*瀬尾さんの愛犬)」がいるし、動物が好きな人に悪い人はいないから!
寂聴 ドーベルマンを小っちゃくしたような犬よね。だいたい私は犬が怖いんだけど、よるるだけは初めから怖くなかった。
まなほ ミニチュアピンシャーという種類です。スマートでかっこいいですよ。
寂聴 私はあまり動物好きじゃないのに、昔、小説を書くために仕方なくて猫を2匹飼ったことがあるの。両方ともずいぶん前に死にましたけどね。
 飼っていて「かわいい〜」とまでは思わなかった。よるるも、かわいくはないけどね。でも蹴飛ばすようなことはしない(笑)。
まなほ そんな露悪的なことを先生はわざと言いますけど、よるるは比較的かわいがってもらっているとおもいます。私がよるるを置いて仕事をしていると、寂しがって吠えることもあるじゃないですか。
 そうしたら、先生が「大丈夫よ。あんたのお母さん、もうすぐ来るからね」とか話しかけている声が、ちゃんと聞こえて来るんです。
 たまに吠えすぎたときに「うるさい!」「黙れ!」なんて、よるるに向かって怒っていることもありますけど(笑)。
寂聴 よるると私と同じくらいお年寄りだけど、「あんたのお母さん。まもすぐ戻ってくるよ」って言ったら黙ります。賢いから私が言う事が、ちゃんとわかるの。
まなほ 犬の11歳は人間でいうと60歳くらいかな。先生より全然年下ですから、もっとかわいがってくださいね。

「イタリアでモテないのはよっぽどのこと」

寂聴 さっき、あなたが言っていた条件は恋愛相手についてでしょう。結婚相手だとどうなるの?
まなほ 同じですね。私は恋愛と延長線上に結婚があるとおもっているので。年齢は下は五歳差まで、上は一回り上の45歳まで。
寂聴 お父さんと同じぐらいの年は困るのね(笑)。でも、まなほのお父さんはとてもハンサムで若く見えるけどね。
 顔立ちはどんなのが好きなの?
まなほ もちろん顔は格好いいですよ。先生みたいに小っちゃい鼻でなくて、ちゃんと鼻が高い人がいいです(笑)。
寂聴 外国人みたいな顔が好きなのね。
まなほ そして、目が大きい人です。顔だけの理想で言うと、俳優の竹野内豊さんとか、伊藤英明さんとか。絵に描いたようなイケメンが好みです。あくまでも理想ですけどね。
寂聴 さっきの恋愛条件にイケメンはなかったような気がするけれど、また条件が増えている(笑)。
 そんなに鼻が高い男が好きなら、外国人にすればいいのに。
まなほ ですから先日お休みをいただいて、遊びに行ったイタリアで頑張ってくるつもりだったんですけどね。
寂聴 イタリア人の男には、ろくなのがいないって言われているよ。
まなほ ほとんどナンパもされませんでした。一緒に行った友人も「あれ? おかしい?」って(笑)。
寂聴 イタリアの男は女だったら誰でも愛想よくするんだから、イタリアで声をかけられないのは、よっぽどのことよ(笑)。
まなほ そんな(笑)。もともと私の顔はあまり外国人ウケしないんですよ。
寂聴 あら、そう。もともと外国人っぽい顔だからね。
まなほ アジア人っぽいちょっと目が細めな顔のほうが、アメリカやヨーロッパではモテるんです。アジアンビューティ的な。外国人の奥さんになる日本人って、さっぱりした顔の人が多い気がします。やっぱりアジア人らしい顔の方がモテるんでしょうね。
 でもいまの日本人はハーフ顔の方が人気で、私たちも、カラーコンタクトを入れたり、わざとハーフっぽいメークをしたりするんじゃないですか。でもあれは外国人には全然ウケないんです。

「牢屋にいっていた人の方が面白い」

寂聴 そういえば、サッカー選手が好きって言ってたこともあったわね。
まなほ 長谷部誠選手でしたね。でも彼はもう結婚してしまっていたし。
寂聴 私はイケメンよりも、ちょっと不良の男が好きなの。でも、まなほは気が小さいから、そういう人は怖いのね。
まなほ うーん、何かあまり悪いことしたりとか、言葉遣いが悪かったりとか、すぐキレるとか、そういう系の人はもう無理です。やっぱり穏やかな人がいいですよ。
寂聴 そのくらいの人のほうが、付き合っていて面白いのだけど、まなほはダメなのね。
まなほ 結婚相手ですからね、面白いだけでは結婚できませんよ。
寂聴 でも恋愛だって、全然しないじゃないの。
まなほ 私の場合は恋愛と結婚は同じですから。
寂聴 でも、やっぱり私は男と女も、ちょっと牢屋に入っていたぐらいの人のほうが面白くて好きなの。だけどまなほは絶対にそういう人はダメなんだから、面白くないね。
 もしあなたが結婚しても、その新婚家庭へ行って一緒にごはんを食べたりしたくない(笑)。
まなほ まだ相手も見ていないのに、そんなこと言うなんてよくないですよ(爆笑)。
 この際ですから言わせていただきますが、先生のいけないところは、その人が目の前にいるときは対応がいいのに、あとで陰口を言うところです。
 きっと私が寂庵に恋人を連れてきたしても、その場ではほめても、おそらく私がいないところで、けなすはずです。
 先生が後で、「私はああいう人嫌いだわ」とか、「何であんな人を選んだんだろうね」とか言うのをいつも聞いていますからね。
寂聴 へへへ(笑)。
まなほ 長い付き合いになる女性編集者の方でも、旦那さんや恋人をなかなか寂庵に連れて来れないのは、たぶんそれを知っているからです。
 自分の旦那さんも先生に悪口を言われるんじゃないかと警戒してのことだと拝察しています。
寂聴 あははは。拝察しているのね(爆笑)。
まなほ 私だって、自分が好きになった人の悪口を先生に言われたくないですよ。もし陰で何か言われているとわかったら、やっぱりそれは悲しいから。
 滅多にないですけど、私を褒めてくれるのと同じように、私が連れてきた人を褒めてくれたら嬉しいのですが。でも、きっと先生は「顔が悪い」「頭が悪い」「面白くない」とか、ケチばかりつけるでしょうね(笑)。
寂聴 そんなことはないわよ。ほめるところがあればほめますよ。でも褒めるところがないこともあるでしょう。
まなほ 先生いつも「お酒を飲みながら、人の悪口を言うのが、いちばん楽しい」って、言ってますしね。
寂聴 悪口を言わないのは、その人のことを、よっぽど無視しているのね。
まなほ またそうやって、自分の方が正しいみたいに(爆笑)。

「好きになると、イヤなところも辛抱できる」

まなほ じゃあ、とりあえず私の結婚相手には、刑務所に入ったことがある人を見つけてくればいいんですね! 
寂聴そういえば私と対談本(*『死ぬってどういうことですか? 
今生きるための9つの対論」角川フォレスタ)を出したホリエモン(実業家・堀江貴文氏)も刑務所に入ったことがあって、独身のはずよ。
まなほ 堀江さんが先生のタイプなんですか!?
寂聴 頭の良さと経歴は合格です。もうこの年になったら何もできないし、みるだけでしょう。みるだけならまなほを見習って、若くてイケメンがいいわね。
まなほ 結局、先生もイケメンですか?
寂聴 あははは。
まなほ 私も先生のご縁もあり、お見合いのようなものを何回かはしているんですけどね。
寂聴 どうしてうまく行かなかったと思っているの?
まなほ うーん、皆さん、私にはもったいないような方たちでしたが、けっこうおとなしくて静かな方が多くて、一緒にいてもなかなか話が盛り上がらなかったんです。
 私がいちばん重視するのは一緒にお話ができることなんです。私と先生は、こうやって坐っているだけでいくらでもお話ができるんですよ。
 やっぱりお話ができると相手というものが、私にとっては最低条件なんだと思っています。いままでお見合いした方たちは、なぜか少し会話がかみ合わず、爆笑したりということがあまりなかったんです。
寂聴 まなほが相手だったから、お相手も緊張したんじゃないの?
まなほ そんなことはないと思うのですが。
寂聴 お金持ちの人もいましたよね。
まなほ それは、先生の秘書に紹介するわけですから、皆さんすごい職業で、物腰も洗練されていました。
寂聴 私は結婚相手はお金持ちでなくてもいいと思っています。むしろ、結婚してから才能や力を発揮する男性のほうがいいんです。たとえ親の遺産をもらって大金持ちだったとしても、幸せに生きるためには何の役にも立ちません。
 私は96年間生きてきましたけど”お金のおかげで幸せになった”という人には1人も会ったことはない。それに、やっぱり男もユーモアがわからないとね。いろいろ言っているけど、まなほが一緒にお酒を呑んでいても、そんなに楽しくないということでしょ?
まなほ そうですね、話が盛り上がらないというか。
寂聴 頭で考えて好きになろうというのはダメですよ。好きっていうのは条件でなくて、パッと会った瞬間にわかるもの。それだけ魅力のある男性と出会わなかったから「どうしようかなぁ」って悩むんじゃないの?
「あんまり好きじゃないけど、条件はいいな」なんて思うのじゃダメよ。相手はいまは偉くなくても、「この人のことが大好きだから、いまは貧乏だけど私が結婚して、偉くしてやろう」という情熱が湧くぐらいでないとね。
まなほ そんな人に出会いたいです!
寂聴 そもそも条件じゃないの。好きになると、自分がイヤだと思っていた部分も辛抱できるようになるの。苦手という気持ちを好きという気持ちが上回るの。
まなほ なるほど。
寂聴 そうやって結婚に失敗することはあるでしょう。
 でも失敗したら別れればいいんです。だって現代は3組に1組が離婚している時代ですからね。人生と同じで、結婚も1回や2回、やり直したってへっちゃらです。
まなほ 先生の1回や2回、別れてもいいという言葉で、気分は大分楽になります(笑)。
寂聴 でも、あなたは見かけによらず古風ですからね、結婚したら辛抱するし、意外に離婚しないじゃないの?
まなほ ふふふ。そう見えますか?(笑)。

「男たちに序列はつけられない」

まなほ 先生は、これまでの長い人生でたくさんの男を愛しましたよね。
 いろいろな方のお話は伺っていますが、私が一度でいいからお会いしてみたかったなあ、と思うのは小説家の小田仁二郎さん(*’79年没)です。
 才能も有り、何度も芥川賞や直木賞の候補になったのに、一度も受賞できず、不遇な人生だったのですよね、でも私は、8年もご一緒しているのに、先生から直接、小田さんのことを聞かせていただいたことはないんです。
寂聴 そうだったかしら?
まなほ 実はそうなんですよ。
 でも小説の『夏の終わり』を詠んだり、先生がテレビの対談で、小田さんについて話したりしているのを見聞きしているうちに、小田さんの雰囲気が、すごく素敵だと思うようになりました。
 写真を見ましたが、顔もいいですよね。小田さんでしたら、私は好きになるんじゃなって思うぐらい、優しい、すごく穏やかなイメージがあります。
寂聴 イケメンでカッコよかったかしらね。
まなほ そうそうそう。
寂聴 彼は東北の出身でしたか、いわゆる「ズーズー弁」で、恥ずかしくて嫌だから、わざと寡黙にしてたのね。それが私には好ましかったの。
まなほ 男性に関しては喋るタイプよりは、あまり喋らないタイプのほうがお好きなんですか。
寂聴 自分がしゃべりたいからね、相手はしゃべらないでほしい。
まなほ デート中に、「しゃべるな! 私がしゃべるんだ」って(笑)。
 そういえば先生、井上光晴さん(*小説家、’92年没)も、しゃべらない人だったんですか?
寂聴 井上さんはおしゃべりでした。うん、よくしゃべったね。
まなほ じゃあ、井上さんと一緒の時は、珍しく先生の方が聞き役だったのですか?
寂聴 いや、同じくらいしゃべっていた(笑)。
まなほ すごい(笑)。毎日が文豪対談みたいなんですね。
寂聴 油断すると、私にしゃべらせないくらい、熱心にしゃべるのね。
まなほ そんな方と先生が2人でいるところを見たかったです。
寂聴 私は自分がしっかりしているからダメ男が好きなの。あれこれやとダメ男の世話をするのがきっと好きなんでしょうね。
 ですからはたから見たら、「何で瀬戸内さんは、あんなダメなのばっかり好きなの?」っていうぐらいの男が多いのよ。
 実際に、面と向かって言われたこともある(笑)。
まなほ 井上さんにはダメ男というイメージがないんですけど。
寂聴 確かにダメ男ではなかったけど、とても変わったところがあって面白かった。たとえば私が上等な着物を買ったとするでしょ。そうすると、「ああ、それよう似合うね。でも、うちの嫁の方が、もっとよう似合う。ちょうだい」って言うの(笑)。
まなほ 本当に? それで先生、まさか、その着物あげちゃったんですか?
寂聴 そうよ。そして、井上さんの長女の井上荒野(あれの)さんが小説家になって『切羽(きりは)へ』(新潮文庫)で直木賞をとったとき、その贈呈式で奥さんと並んで親族席に座ったの。
まなほ うーん、大人の関係ですね。
寂聴 そのころは、もう井上さんは亡くなっていたからね。贈呈式で会った奥さんが大きな声で「あっ、瀬戸内さん来てくださったの」なんて言うの。みんながいるところでですよ。そして自分の着ている着物の袖を広げて私に見せて、
「これ、瀬戸内さんの着物、似合うでしょう?」とか平気で言う(笑)。
まなほ 奥さんも、井上さんに負けず劣らず、すごい人ですね。
寂聴 井上さんから「着物をちょうだい」って言われても嫌じゃなかった。何か明るい感じで。「ああ、いいわ」って気になるの。
まなほ ムリムリ、私は無理です。自分がいちばんがいいです(笑)。
寂聴 井上さんには何でもずいぶんあげた。あの人は最高に貰いっぷりがいいの。
まなほ 先生の恋人のお話、こうやって聞いているだけでも、何だか頭がクラクラしてきます。
寂聴 あははは。
まなほ 順番をつけるものじゃないと思うんですけど、先生がいろいろな方といろいろあった中で、いちばん”いい男”は、どなたですか?
寂聴 そんなものない、やっぱりそのとき、そのときですからね。いいこともあれば嫌なこともあったのよ。いいことばかりとか、嫌な事ばかりなんていう人間はないからね。
まなほ それぞれのよさ、それぞれの悪さがある・・・・・、深いですね。
寂聴 だから序列はつけられないの。

「先生のお蔭で、家族に優しくなれました」

まなほ “それぞれのよさ、それぞれの悪さ”で思い出したのですが、「文章が素直で、手紙が上手」と、褒めて頂いた以外にも、もう1つ褒めて頂いたことがありました。
 「あなたは優しい」って。この2つのことで褒めて頂いたことが本当に嬉しかったんです。
寂聴 もう何度も言っていますよ。あなたは本当に優しいの。
まなほ そうですね。「優しい、優しい」と言って下さるので、それを励みに生きています(笑)。でも最近は、「優しい」だけじゃなく、「優しいところしか、いいところがない」になりましたよね。
寂聴 いえいえ、優しいだけで大したものです。
 いつも不思議なのは、休みになると、まなほが必ずおじいちゃん、おばあちゃんの所に行って泊まって来ること。あなたの年頃だったら、普通はおじいちゃん、おばあちゃんのところへは行かない。やっぱり男がいないからかね(笑)。男がいれば、そんなところに行かない。
まなほ 男とか関係ありません!(笑)。何かあるとすぐ恋人がいるいないと結び付けて考えるのは先生の悪い癖です。
寂聴 ふつうだったら、「おじいちゃん、おばあちゃんに会いに行く」というのは、言い訳で、実は恋人に会いに行っている。
帰ってくる時は、ちゃんとお土産を持ってくるから証拠もある(笑)。
まなほ 先生が祖父母に会ってくださって以来、2人とも先生のファンになって、孫の私が先生の秘書として働いているのも自慢なんです。
 私が遊びに行くと、すごく先生のことを聞きたがるし、いろいろ話してあげるととても喜んでくれます。そして「先生に」ってお土産を持たせてくれる(笑)。
寂聴 「朝日あげ」というおかきが、おいしいね。そばに置いてあると、ついつい手が伸びる。袋に「ほっぺた落ちる」と書いてあるもの(笑)。
まなほ 兵庫県の銀山で有名な生野というところで「日本一のおかき処」ということになっています。
寂聴 それにしても何でいつも泊まりに行くの? どこが面白いのかって思うのよ。
まなほ もう! 父方の祖父母には息子しかいないわけですよね。
 でも私の父もそうですけど、男の人たって、両親に十分に良くしてあげたりできないことが事が多いですよね。
 父が出来ない分、日常生活のささいなこととか、気遣いとかわたしがしてあげたいって思うようになったんです。祖父母には女の子がいなかったので、私のことを「娘のように思っている」なんて言ってくれますし。
寂聴 おじいちゃん、おばあちゃんは、おいくつになったの?
まなほ 祖父は先生よりひと回り年下の84歳です。
寂聴 おじいちゃんは、とてもハンサム!
まなほ そうですか?
寂聴 おばあちゃんは、優しくてしっかりしているし。
 この前のゴールデンウィークのときにも、おじいちゃん、おばあちゃんのところへ行っていたてね。なかなか、できることじゃありません。
まなほ 私が親孝行したり、祖父母に孝行したりするようになったのは、実は先生のお蔭ででもあるんです。
 先生がいつも私によくしてくださるから、私も家族に優しくしたいと思うようになったんです。
 先生の振る舞いを間近に見ていて、「こうすれば相手の方に気持ちよく話を聞いていただけるんだ」とか、自然に身についきたような気がします。
寂聴 (すこし照れながら)ご家族も「まなほは最近、変わったね」と言うの?
まなほ 私の家族は「寂聴さまさまだ」と言っています。
 母なんて、「まなほのことは、瀬戸内先生の所へ養子に出したものと思っている。先生がすごく面倒を見てくださるから、お母さんはあなたのことは心配していない」なんて、言っていました(笑)。
寂聴 私にも、もっと優しくしてくれればいいの(笑)。
まなほ してますよ! 人聞きが悪い(笑)。
 でも祖父母は、年々小さく弱弱しくなっていくように見えるんです。「昔はもっと元気だったのに」って。
 でも先生は全然弱弱しくならない。逆に年々若返っているように見えます。祖父母との間に感じているよ
うな年齢差を全く感じないんです。だから先生のことを”おばあちゃん”と思ったことは一度もないんです。ふざけ”おばか”とか言う事はありますけど(笑)。96歳という年齢はわかっていますが、高齢者という扱いもしていませんよね?
寂聴 だから私をいつも蹴っ飛ばすのね(笑)。
まなほ 蹴っ飛ばすのは先生の方じゃないですか! 何かあると、その短い足が飛んでくる(笑)。そして、私はキーッて首根っこつかむ。
寂聴 あははは。まなほは若くて体が大きいし、もう口ではかなわない。だから私は足でピッとやる(笑)。
まなほ きっと、そんなケンカをできるほど年齢差を感じていないのでしょうね。それどころか、私の方が年上のような錯覚することもあります。

「祖父母」と「孫」が親友になる方法

寂聴 いい孫娘がいて、おじいちゃん、おばあちゃんも幸せね。
まなほ 私だけじゃなくて、姉も妹も同じように祖父母に接しています。
寂聴 まなほは3人姉妹の真ん中だけどね、よく気がつくのと、優しいのはいちばんじゃないかな。
まなほ 優しいだけじゃないんです。器量もいちばん(笑)。
寂聴 そう、あなたはいつも「器量もいちばんいい」って言うの。私はそう思わないんだけどね。お姉さんなんかもっと美人よ(笑)。
 それに妹さんは歌が上手くて、舞台に立てるほど声がいいんだもの。
まなほ 帝国ホテルでの私の出版を祝う会でも私のために歌ってくれました。
寂聴 そう、拍手喝采だったわね。
 あのパーティも林真理子さんや篠山紀信さん、それに村木厚子さん(*元厚生労働事務次官)ご夫妻も来てくださって大盛況でした。そんな凄い人たちの前でものおじせず、堂々と歌ったので感心して覚えています。
 村木さんは私と一緒に「若草プロジェクト」(*弱い立場の少女・女性に寄り添うためのプロジェクト。瀬尾さんも理事の1人)の呼びかけ人を務めていますが、あなたも若草プロジェクトの勉強会のたびに、すごく成長しているようですね。
 それにしても、まなほはおじいちゃん、おばあちゃんだけでなく、小さいころから妹さんの面倒をよくみていて感心します。
まなほ そうですね、家族のこと大好きなので。
寂聴 肉親というものは難しいものです。
 私は、小説家になるために幼い娘を捨てましたから、いまも娘や孫たちとベタベタすることはできません。でも、あなたは、とても自然に家族と仲良くしている。それは、とても素晴らしいことだと思う。
まなほ 先生、今日は褒めすぎですって! いつもこんなに褒めてくれないのに、それだけでもこの対談をしてよかったかも(笑)。

つづく 新聞や文芸誌の連載を抱えながら、
最近は俳句作りにも 励んでいる寂聴さん。
俳句の”一番弟子”は
意外な人物でした――。
第五章「いまが生涯でいちばん楽しいとき」