(1) 口説く
すべての恋は、まず自分の気持を正直に告げることからはじまる。なにもいわずに、相手がわかってくれるはずだと思うのは、自己中心的な怠け者にすぎない。
2 タイミング
男と女はタイミングである。行くと決めたら行くべきで、それに失敗しても、行かずに悔いるより傷は浅い。
3 恋の効用
恋すると、女は美しく、男は生き生きとしてくる。まさしく、恋はその人を内側から輝かせ、引き立たせる最良の化粧品である。
4燃えあがる愛
ともに燃え上がったとき、二人は愛の絶対を信じ、このままともに果ててもいいと思う。こんな熱い二人に、ありきたりな常識や道徳を説くのは、獣に道を説くのに似て無意味である。
5愛とエゴ
愛が深まるにつれて、エゴ(自我)も深まっていく。圧倒的な愛を成し遂げるためには、エゴイストという名の才能が必要である。
6 移ろう愛
強いと思われた愛も離れすぎると薄れるように、二人が近づきすぎても、愛は徐々に萎えていく。
7 結婚の実態
結婚することがハッピーエンドなのではない。結婚して夫婦ともに過ごすうちに。二人は確実に老い、やがて死にいたる。
その最後のとき、私は幸せだと思えたら、その結婚は初めてハッピーエンドであったと胸を張っていうことができる。
8 不倫の内側
恋の焔はまわりの条件が悪ければ悪いほど燃え上がる。
まさしく不倫はこの条件に適った煌めく焔だが、それを保つには圧倒的なエネルギーと、もっとも愛する人を愛して何が悪いという、反社会的な開き直りが必要である。
9 別れと再生
愛はいつか終りが訪れるが、といって悲しむことはない。たとえいっときでも愛したいという事実は、その人をより豊かにするし、そこから立ち直る勇気もわいてくる。
この章では、
女性の精神と?、
さらにその行動から性の内面まで、
さまざまな角度から考察し、描写された
文章が集められている。
むろん一口に女性といっても、
生きてきた背景や体験から感性までさまざまで、
同じ言葉でくくれるわけでなはない。
それは承知のうえで、
なお女性を理解するうえに
参考になると思われるものが、
中心になっている。
1 女の武器
素直さも一途さも、知性も教養も忍耐力も、泣きごとも嘘も媚態も、女の場合はすべて武器になる。だがそれもつかいようで、下手なときに打算だけで使うと、自らの卑しさをさらすだけの、自分を傷つける武器になる。
2 女体の美
若いときは誰でも美しく、それゆえに、若くて美しいことは才能ではない。だから四十から五十、さらに六十から七十と、歳を重ねてもなお美しければ、それこそまさしく、美しいという名の才能である。
3 女の未練
愛しているから未練が残る。だがその未練の裏には、憎しみが反発、復讐など、さまざまな思いが絡み合っていることを忘れるべきではない。
4 結婚願望
とやかくいっても、女は確実に身近にいて、つねに愛してくれる男に傾いていく。さらにその男が結婚という形を示したら、もはや鬼に金棒である。
5 女と仕事
仕事に有能な女性と美しくセクシイな女性とは、必ずしも一致しない。ときにそれを嘆く女性もいるが、それだけ女性の生き方は多彩で、変化に富んでいるともいえる。
6 愛人の立場
結婚はしていないが、経済的に自立して、かつ深い愛にもつつまれている。こういう女性をフランスではメトレスというが、そこには暗い影はなく、むしろ自立した女性のプライドと前向きの意欲が表れている。
7 女の妖しさ
女のからだは微妙だが、精神は必ずしも繊細とは言いかねる。むしろある面では男より逞しく、だからこそ、女は生理、妊娠、出産という大きな嵐に耐えて、生きていけるのであろう。
8 女のからだ
女性は多彩で複雑で、常に流動的である。その動きは必ずしも論理的でなく、それがまた女の魅力となって、男たちを二重に驚かせ、惑わせる。
9 強き性
最も気の強い男も、もっとも気の弱い女性に勝てないように、どんなに秀れた理論家より、ごくごく平凡な女性のほうが、はるかにラディカルで革命的である。
第V章 男という性
この章では、
男性の精神と?、
さらにその行動から性の実態まで、
さまざまな角度から考察し、描写された
文章が集められている。
女性に比べて男性はバラツキが少なく、
いわゆる型にはめやすいが、
反面、男性は意外に自らの内面をさらさず、
本音がみえにくい。
ここではその隠された心の内側に踏み込み、
男を理解するうえで参考になると思われるものが、
中心になっている。
1 少年の性
少年の股間には、自分で抑制のきかぬもう一人の男が潜んでいて、これの制御にエネルギーの大半を費やしている。
2 男の成長
性に目覚め、女性を知り、それに溺れ、自信を得ていくことが男の成長である。いいかえると、男はそれだけ性にこだわる性的ないきものである。
3 男の浮気
しかるべき経済力と自由度とチャンスがあれば、ほとんどの男は浮気する。もししない男がいれば、ごくごく稀な愛妻家か、女性に迫る勇気まではない、精神的な不能者である。
4 男の欲望
懸命に働き、地位を得て金を得る。その目的はただひとつ、女にもてて、素敵な女性を自分のものにすることで、原点を探れば、自然界のオスがしていることとなんら変わりはない。
5 男の夢
地位も権力も名声も、それぞれに夢見るが、その奥で男がさらに夢見ているのは、最愛の女性と淫らなかぎりを尽くした性の饗宴である。
6 男の本音
男は自尊心が強くプライドが高い生きもので、これを揺さぶられたときに最も反撥し、打ち砕かれてたときに最も深く落ちこむ。いいかえると、自尊心とプライドをくすぐれば、男を巧みに操ることもできる。
7 愛育する喜び
強く力のある男は、多くのお金と時間を費して、若く稚い女性を自分好みに愛育する願望を抱く。なんと馬鹿なことをと呆れる女性もいるが、女はそういう無駄なことをしないところが、男との違いでもある。
8 男の弱点
男は根は保守的で、そのくせいっときの感情に酔って見栄を張り、いい恰好をしてみせる。要するに情に脆く、泣き虫なのだが、それを見せずに強がる分だけ、心も体も疲れて弱っている。
第W章 男と女のはざま
この章では、
男と女の違い、
とくに資質や心情、行動、
さらにセックスから結婚観の違いまで、
さまざまな面から観察し、描写された
文章が集められている。
むろん男と女は共通する面は多いが、
同様に異なる面も無数にある。
この根本的な違いを
まず知ることによって、
本当の意味で男と女は理解し、
許し合えるようになる。
1 資質の違い
男は瞬発力は強いが、持続する力では女性に勝てない。待つ力も耐える力も弱いから、つい先に手を出し、最初に暴力をふるったのはあなただ、ということになり、まわりも同情し、気がつくと男はいつか女の軍門に下っている。
2 心情の違い
男は自分に酔う。自分と環境と、近視と遠視との二人では、愛について語っても意見が合わないのは無理もない。
3 行動の違い
男は短距離走者で、女はマラソンランナーである。当然のことながら、初めは男が先行するが、中盤から後半は確実に女が抜いて、ゴールでは男はかなり差をつけられて、負けている。
4 性の違い
女の?はひ弱だが、性は多彩で逞しい。かわりに男の?は頑健だが、その性は直線的でぜいじゃくである。複雑な分だけ、女の性は導く男が必要だが、気が付くと、その男は女を悦ばせるだけの奉仕者となっている。
5 エロスの違い
快楽の頂点で、女はこのまま死にたいと願い、男は射精のあとで、このまま死ぬかもしれないと怯える。
6 結婚観の違い
結婚に当たって、女は愛を優先し、男は形を優先する。いいかえると、女は好きな男性となければ結婚を続けられないが、男は多少好きでなくても、結婚と言う形は保つことができる。
7 愛の違い
男の「君が一番好き」という台詞は、他に二番や三番目も少し好きということの意味だが、女の「あなた一番好き」はほぼ一人を意味する。要するに、男の愛は比較級だが、女の愛は絶対級に近く、そのあたりが男と女の揉める原因でもあ。
8 別れの違い
女は別れるまではおおいに迷うが、一度、別れると決めたら、もはや振り返りはしない。これに反して、男は別れるとは簡単にいうが、実際は容易に別れず、ただひとつ、男が毅然と別れるときは、後任がいるときにかぎられている。
第X章 愛の万華鏡
1 セクシイ
美しい女は少なくないが、セクシイな女は少ない。同様に、姿のいい男は多いが、セクシイな男は少ない。なぜなら、美しさやハンサムは外見の問題だが、セクシイは内面から滲むものだけに、一朝一夕には成り立たないからである。
2 前戯
時間をかけて丹念に優しく愛撫する。性急で我慢のきかない男にはいささか苦手な作業だが、それが豊かなエロスへ通じる第一の扉である。
3 エクスタシイ
エクスタシイを満喫した女性と、していな女性とでは、男というものへの愛着と認識はまったく異なっている。同様に相手の女性をエクスタシイに導いたことのある男と、導いたことのない男とでは、女に対する愛着と怖れがまったく違っている。
4 後戯
情事のあと、肌と肌を触れあわせたまま燃えた余韻に浸っている。それこそまさにボディランゲージで、声に出す言葉はすべて不要である。
5 変貌
結ばれる度に悦びは深まる。このままどこまで墜ちていくのか、女は強しその深さを想像して目を閉じ、男はその怖さに怯えて目をつむる。
6 性の不思議
男女の愛は、性で結ばれた当事者の二人にしかわからない。その性の実態を知りもせず、二人の愛に介入するのは、本の知識だけで人間を知ったと思いこむ、学者の愚かさと同じである。
7 エロスの力
男女のあいだでは性愛まですすんで、初めて相手の実態が見えてくる。そこまで行かずに見える相手は、人間というより、外見だけで装われた人形にすぎない。
8 愛は不変
自然科学がこれだけ進んでいるのに、男と女は相変わらず、好きだ嫌いだと、つまらぬ痴話喧嘩をくり返している、といって嘆く人がいる。
しかしだからこそ人間なのであって、そういうところがなくなったら、単なるロボットかコンピューターにてなってしまう。
所詮、男女の愛は体験と実感でしか知り得ない一代かぎりの知恵で、それ故に千年も前もいまも変わらず、これからも大きく変わることはないだろう。
あとがき
一九九九年八月 渡辺淳一