セックスレス・性の不一致

愛しているという実感が欲しかった

煌きを失った夫婦生活・性生活は倦怠感・性の不一致となる人が多い、新たな刺激・心地よさを付与し。避妊方法とし用いても優れた特許取得ソフトノーブルは夫婦生活での性の不一致を改善し、セックスレス及びセックスレス夫婦になるのを防いでくれますトップ画 

本表紙酒井あゆみ
 ノンフィクション・ライター
●1971年、福島県出身、18歳で上京、最初は「男に売られた」形で風俗の世界に入る。ファッションヘルス、ホテトル、SM、ソープランド等“風俗のフルコース”を経験。風俗の他にも、AV女優や「愛人業」など経験している。
●1994年、23歳で風俗を引退。AV系モデルのマネージメント業を経て『東京夜の駆け込み寺』『眠らない女』『秘密』『快感のいらない女たち』(講談社)で作家デビュー。
●今回、初めて、幼少期の性的虐待や約10年前のレイプ経験などの記憶を辿り、自身のイケない理由に向き合ってみた。

◆いくらセックスをしても感じないのだ。そしてエクスタシーさえ

ピンクバラ 約六年前、風俗を上がったそのときから、私はあの創(つく)れた個室で知らない男の愛撫に過剰に反応する必要がなくなった。現在は自分が感じるままのセックスができる環境にいる。
 しかし、風俗を辞めてから新たな悩みが出てきた。いくらセックスをしても感じないのだ。そしてエクスタシーさえ、知らない。つまり今まで同じように「イカない」のだ。これでは風俗現役のときとなんら変わらないじゃないか。演技する必要もない。自分では仮面を被(かぶ)る必要もないはずなのに‥‥。

私は幼稚な想像を持っていた。「愛している人とだったらイケるはず」。それまでの性体験を否定するかのように。
 「イク」ということが、私にとって「愛している人のセックス」だった。そして、それがお客以外、風俗以外でのセックスだった。
 私には、現役時代から八年間も一緒に暮らしている男がいる。セックスのパートナーも、彼だ。
 
風俗を上がってからの私は、それを確認するかのように、全ての自分をさらけ出すようにした。そして今までの自分を否定するかのように、その手立てとして彼とむさぶるようなセックスをした。

卑(いや)しい性格も、変態的な性癖も。そう、わたしの全てを。でも、セックスをすればするほど私の身体は「演技」をする。そして頭の中は常に冷静に感じる自分を、射精する男を、観察している。しらける。どんどん。無意識に風俗で働いていたときよりも、さらに冷たいセックスをしてしまう。

「私は不感症?」――自分をさけ出せば出すほど、本当の自分が闇に潜(もぐ)っていくようにかんじる。

 私は本当の「セックス」ができるのか? 私にとって、本当のセックスの確認が「イケる」ことだった。どうやったらイケるのか? 新たな悩みだった。そんな馬鹿バカしいことが、私にとって重大だった。もしかしたら、私は彼を本当は愛していないんじゃ。

身体も自分もさらけ出しているはずなのだ。やっぱり私は、自分をさらけ出すことができない、他人を信じることができない人間なのかもしれない、と思ってはいるけれど。

 そうやって突き詰めて考えてみると、人とのコミュニケーションの取り方がヘタなのかもしれない。というか「分からない」と言った方が正しいのかもしれない。

 「トラウマ」――私の脳裏に小さく焼き付いている言葉。それまでその言葉は私には全く縁がなかった。詳しい意味すら、知ろうともしなかった。無意識のうちに避けていたのかもしれない。

幼い頃、叔父の所に住んでいた。ある日、友達と一緒に小学校から帰る途中、知らない男の人に呼び止められた。…・そこからの記憶はすっぽりとない。ただ、その日、私は何事もなかったようにいつもの通り家に帰った。夜になって、警察の人が二人、私を尋ねてきた、「ねえ、さっき○○ちゃんといたときに会ったおじさんのことを教えてくれる? 憶えていることがあれば何でもいいんだ。例えば洋服とか、どんなの着てたか、とかね」。

多分、一緒にいた友達がその男のことを親に伝えて、慌てて親が警察を呼んだのだろう。私はその男の人の洋服の特徴だけ知らせた。

「ポケットがたくさんついているズボンをはいていた。あと? ううん。わかない」…・結局、その男は見つからず、「事件」は迷宮入りとなった。
 
その男は、私の下着を足首まで下げて、指で触った、のだった。そして、洋服の上から(中も、かもしれないが)未発達の胸を触っていた。いつまでもいつまでも指先で乳首を転がしていた。多分、短い時間の中の出来事だったのだろうが、そのときは長く感じた。私はずっとその男の指先の動きを目で追っていた。

なんでそんなことを思い出すのだろう? なんで、私は警察にそのことを伝えられなかったのだろうか。なんで私は、そのとき一緒にいた友達のように親に泣きつくことができなかったのだろうか。

 そのことを思い出す前から、ヘンだとは思っていた。私は、胸を触られるのが極端に嫌だった。セックスのときも極端に「乳首」に触られるのが嫌がっていた。ブラをしないで、洋服の生地が直接乳首に触れることも嫌だった、私の乳首はそんな少しの接触で勃起するのだ。

 病的に乳首を触られるのを嫌がる私を見て何人の男に聞かれたことか「なんで?」と。「痛いから」、いつもそう答えていた。風俗で働いていたときも、それが一番の苦痛だった、とも言える。それは「彼」にさえ同様だった。彼にも何度かそのことを聞かれた。

私は彼にそうしてもらうことを望んでいたからだ。その理由を知りたいがために何度も記憶をたどった。しかし思い当たることは見つからなかった。風俗で働いていたせいだろうと、自分で勝手に思い込んでいた。そして、いつしかそのことを忘れかけていた。

思い出した日

 いつもの彼の自分勝手なセックスが、いつもよりさらけたさらに身勝手だった日、さすがに怒りを感じた日だった気がする。私が死ぬほど嫌な「乳首を指で転がす」という行為を執拗(しつよう)にやってたから‥…だっかな?
 
とにかく、涙が出そうなるくらい、指で責められた。乳首を責められると、いつも目の奥のほう、頭の奥、かも? 頭の奥の闇から砂嵐になる。そして、その闇がグルグルと回りだす。

そして、歯ぎしりをしなくてはいられないくらい、身体中が、何と言ったらいいかな? う―ん。とにかく、身体中が硬直してきて、全神経がそこだけ集中してくる。そして身体がバラバラになりそうになる。そういう感覚かな? 気持ちがいいのでは決してない。想像するだけで鳥肌が立ってくる。

 それを知るまでは、私は「トラウマなんて関係ない」と思っていた。そのことを知った今でも関係ないと思っている。そんなものがあってもなくても生きていくには関係ない。と。多分、これからもその考えは変わらないだろう。他の人には強がりにみえても。

◆初体験

私の初体験は十六歳のときだった。相手はその時組んでいたバンドのドラムだった。多分二十五、六歳ぐらいだと思う。その人も東京でミュージシャンとしデビューを目指した人だった。数年前、友人から「あの人、東京に出て来ているんだって」と聞いたが、不思議となんの感情も湧かなかった。
 
その人とは、知人を通じて知り合い、一緒にバンドを組んでいた。そして、いつのまにか、付き合っていた。好きだった音楽が洋楽だったということの共通点からだったと思う。でも、本当の理由は、バイトしてた水商売のお店から彼の部屋が近かったからだった。その人は青森から上京して一人暮らしをしていたので、気楽に泊まりに行けた。

 当時、私は家にあまり帰りたくなかった。もちろん、反抗期のせいもあったんだろうが、親の事業の失敗で精神的に一家離散状態だったからだ。だから、その人の家は逃げ場所としては最適だった。

 初めての日、それはライブがあった日。ライブを終えて、他の仲間と「びっくりドンキー」でご飯を食べた私と彼は、彼の部屋に二人で戻った。

一緒の布団に入り、彼が腕を回してきた。それだけで私は「ああ、するのか」とその後に行われることを知った。初めて男の人の肌に触れた。裸の胸に触れた。それまで男の人、同級生ですら、手も握ったこともなかった。握った、と言ったら体育際のダンスのときぐらで。それは触れ合いでしかなくって。

つまり、一般的に言われる、言うのも書くのも照れくさい「A」とか「B」「C」などの経験をすっ飛ばして私はいきなりセックスだった。だからかもしれないが、初めての男の人の肌が自分の頬(ほほ)に触れたとき、自分の同じ皮膚の感触だったことに驚いた。

 彼も終わった後、驚いていた。「初めてだったの?」血が少し出ていたからだったと思う。私は小学校のときからオナニーを覚えていたので、それ以上の快楽をセックスで得られるのだと思っていた。

だけど、アソコが裂けそうで痛かったことと(本当に裂けたのだろうけど…・)、内臓を通り越し、喉元(のどもと)までモノが挿入してきた感じで、とにかく吐き気がして気持ちが悪かった。
 
その日も、次の日も、家に帰った後も、まだ違和感があった。ずっとアソコにモノが入っている気がする。入っているはずもないのに、なぜか足を閉じるのに気が引けた。

 そんな体の異変も、私はなぜか嬉しかった。自分がやっと他人に、特に男の人に接するのに、少し緊張しなくて済む。これで人前で食事をするのに抵抗を覚えなくても済むかもしれない。そんなくだらないことを嬉しがっていた。

 彼とは、その後、一回くらいはしたと思う。そして、三回目、セックスのあとの残尿感のような違和感がなくなってきていた。「あれ、破れた?」彼は、終わった後、ペニスをゆっくり抜いたときにポツリとつぶやいた。

私はその言葉をすぐに理解できなかった。彼もそんなに動揺していた様子はなかったからだ。その日はそれで終わった。それから、普段と変わりなく彼とは付き合っていた。しかし、その日以来、なぜかセックスをするのをお互い止めていた。

 しばらくして私の身体に異変がおきた。次の月になっても生理がこない。しばらくして激しい吐き気が来るようになった。学校で授業中に気分が悪くなり、保健室に行った。保健の先生に「この頃、吐き気がして仕方がないんですよね。カゼですかね」と聞いてみた。先生は「あのね、違うんだったらいいんだけど、『産婦人科』って書いてある病院に行ってみて」。

 そこでの診断は妊娠二ヶ月。すぐに費用を聞いた。自分が行っていた高校のすぐ近くの病院だったので知り合いにバレるかもしれない、とか、そこまで頭が回らなかった。とにかく、堕ろすことしか頭になかった。そして、私は母親の財布から手術費用の八万円プラスタクシー代の一万円をくすねた。
 
一応、彼のほうにもそのことを伝えたが、信じてもらえなかった。私が一途な女に見えなかったんだろうな。そのときは思いきし泣いたな―。結局、一人で行って全てを終えて帰った。思いきっし泣いたわりには、手術は痛みもさほど感じず、あっさり終わってしまった。家に帰ってきて、ずっとベッドでねているとお腹がトクトクと泣いてきた。そこでやっと私は中絶したことを実感したのだった。
 
病院から一週間は安静にしてろと言われたので、素直にベッドで寝ていた。そうしてないと、身体が元に戻らない気がしたからだ。しかし、あまりにもヒマだったので、二日目ぐらいに薬局に行ってブリーチ剤を買ってきて。そして髪の毛を金髪にしてしまった。以前からしてみたかった髪型だったし、なんか、気がまぎれるし、気分がかるくなってよかった。その後も、髪の毛の色をころころ変えた。

 その男とはそれっきり、その後、男は何を考えていたのか知り合いを通じ私にテープを送ってきた。その百二十分テープにはバラード調の曲が満タンにリミックスされていた。私はテープに書いてある曲名を見ただけで背筋が寒くなり、最初の曲もろくに聴かないままテープを止めた。

巻き戻しをしないまま、その後どこに行ったのかすらわからない。捨ててはいないとおもうのだか。捨てたらあまりにも可哀そうかな? と思ったので、一応、取ってはおいたのだけど‥‥。

 そういえば、こんなこともあった。初体験のすぐ後ぐらいだったと思う。高校にもあんまり行かず、バンドの練習に明け暮れ、歌手になることを夢見ていた頃。私は水商売をしていた店の知人からスカウトされた、その人は、東京で歌手を育てていた人だと言っていました。

 私が勤めていた店はハコバン(店と契約を結んでいるバンド)を置いてるところだった。だから、その人は私を育てて、最初にそのハコバンのボーカルをやらせて修行させ、ゆくゆくは東京に行って、自分が付き合いのあるレコード会社でデビューさせる、そんなことを私に言っていた。
何も知らない私は馬鹿正直にそのことを信じていた。
 
その人は、ピアノを弾きながら私にボイストレーニングをしてくれた。本格的に練習するのは初めてだったので緊張しまくっていた。しかも、練習のときはマイクのボリュームは0か1くらいしか上げてはダメだったのでバックの音楽隊に音を消されて全然声が聞こえなかった。

緊張していたせいでもあったが、私は歌手になるには声量が足りなかったようだった。朝四時にお店が終わった後、その人は何度もボイストレーニングに付き合ってくれていた。

 いつものように練習を終え、私の家まで車で送ってくれていた。店から私の家に帰るには、小さなラブホテル街を通る。ある日、その人は「君は声量が足りないから、思い切り声を出しても大丈夫な場所で練習しよう」と言って、ラブホテルの一軒に車のハンドルを回した。私は何の疑いもなく、単純に「ああ、確かにホテルの中だったら大声を出しても迷惑じゃないな」としか考えなかった。
 
しかし。その人はホテルに入るなり、ベッドに私を押し倒した。やっと気がつた私は泣きながら叫んだ。だが、その日から彼とはぱったり会わなくなった。そんなことがあったのは、堕ろしてから一ヶ月も経っていなかった頃だったと思う。だから余計セックスするのが怖かった。
 
 十八歳で上京し、一人暮らしをし始めた頃にはこんなこともあった。キャッチセールスをしていたときに、その会社の寮に住んでいた。場所は新宿で、オートロックもエレベーターもないマンションだった。ある日、仕事が終わって家に帰ってきた。夜中の一時近かったし、疲れていたのでそのまま寝てしまおう、と思ったが、お腹が空いてきたのでコンビニに食事を買いに行った。

 四階に住んでいた私は階段を上っていた。二階を過ぎたあたりだったろうか。一人の男が私の後ろをついてくるのが解った。そのマンションは小さかったので、あまり部屋がなかった。

私は他の部屋の住人とだと思い気にも留めなかった。しかし、私の部屋の階までその男の気配は消えなかった。四階には私の部屋ともう一つの部屋しかなかった。その部屋は会社が入っていたので、そんな夜まで人はいない筈なのに。

レイプ

 ドアの前にたどり着き、後ろを向いた。視線が合うと。男は「私は変態です」と書かれた紙を取り出した。私は軽蔑の目をその男に向けた。そうしたら男は興奮したのか、私に襲い掛かっててきた。抵抗はしなかった。殺されるよりマシだと思っていた。

レイプも初めてではなかったし。別に処女じゃなかったし、素直にヤラせれば大人しくなるのは解っていたからだ。ただ、自分の部屋の前で本当によかったと思った。すぐに鍵を開ければ、そこは風呂場がる。なによりも最初にシャワーを浴びれる。いちはやく男のモノが入ったアソコを洗い流せる‥‥。

 それまでそんな経験があるにもかかわらず、私は本当にバカ過ぎる。そう思った出来事があった。風俗嬢になって、男を見ればお金としか見れなかった十九歳の頃。「この世はお金が全て」そんな考えからその出来事に発展したのだと、今考えるとそう思う。

 その男とは駅のホームで会った、多分、「○○に行くにはどうやって行けばよいのかな?」と声をかけてきたのがキッカケだったと思う。それは、新橋のお店にいたときで、高円寺に住んでいた私は、出勤には電車を使っていた。

 どういう経緯でそうなったかのか、今では正確には思い出せない。ただ、覚えているのは、その男が分厚くなった茶封筒を見せて「お金は持っているから」と言ったことと、千葉に行く途中の電車の中で「いま逃げたら殺してやる」と脅されたこと。

 その男に千葉のラブホテルに連れていかれ、部屋に入って無理やり服を脱がされ裸にされた。すこしの間、私の胸と性器を男が舐めていた。私はそのとき、「これでお金がもらえるんだったらいいや」と半ば諦めていた。そんなことは店でさんざんされていたし、あの分厚い茶封筒だったら、相当お金は持っているはずだ。

一回ぐらいヤラれて、それだけのお金が貰えたら、いい稼ぎになる。そんなことを考えていた、しかし、いつまで経っても男は止めない。耐えられなくなって、私はまた泣き始めた。やっぱり、ずっと乳首を舐められるのは、嫌で嫌でたまらなかった。泣いてぐっている私を見て、その男はいったん止め、ビールを飲み始めた。そしてしばらくして男がトイレに入った。私はタオル一枚巻いて、足音を殺し、音がしないようにそっとドアーノブをひねり、外に出た。

 全力で走り、看板の電気のついていたレンタルビデオ店に駆け込んで。「警察を呼んでください!」。もう、夜中になっていた。なんだか私はずいぶん長い間、何日もホテルにいた気分だった。
 
警察が来て、そのラブホテルに行ってくれた。男は洋服だけ着て逃げた後だった。フロントに警察が尋ねると、その男が預けた茶封筒の中身は新聞紙だったことがわかった。私が見たそれは、お金ではなかったのだった。
 
警察は私をずいぶん責め立てた。電車に乗っているときに、なぜ大声を出さなかったのか。刃物を突きつきつけられてないのに、と。そのとき、私を迎えに来てくれたのは
後にヒモになる、当時付き合っていた男だった。

 とりあえず、事情聴取をするから、とその警察官の一人は名刺をくれたが、結局、それっきりだった。警察はなにもしてくれないと、改めて実感した出来事だった。

 それ以降、まともにセックスをしていたのは事件のときに迎えにきてくれた男くらいだったと思う。私を風俗の世界に導いた男だ。その男とも、好きじゃなくて、初対面で「お前は俺と付き合うんだ」とか訳の分からないことを言われたからだと思う。

私は、強引な男に弱い。というか、そのほうが楽でいい、私の頭の中は「髪の毛が長くない男の人は嫌だな―」だった。でも、なぜかセックスしてしまった。一人で上京して寂しかったし、一応、バンド君だったから、他のパンピーよりはいいか、と妥協をした。そんなこと考えてる一方では、嬉しくて仕方なかった。やっぱり、どんなにダメな男でも「彼氏」はいたほうがいい。

だって、友達とかで喋っているときに「今、彼氏いないんだ」とかだと、自分が惨(みじ)めになるから。
 最終的に男は「ヒモ」になり、私は風俗に売られ、その恋は終わる。自分の自己満足のための彼氏だったからそうなったんだろう。

 それらの経験の後、私は無意識に男をさけていたのかもしれない。まぁ、私がモテなかった、のも当然あるのだが。
 夢に破れ、男に裏切られた私は、風俗嬢として生きる道を選んだ。ヒモは目の前から消えていったのだから、普通の生活に戻ることはできた。しかし、私の関心はお金へと向かっていた。十九歳になる頃には立派な風俗嬢になっていた。そして二十三歳で現役を上がるまで、様々な風俗の業種を経験してきた。
 
最初はファッションヘルスだった。口と手だけ使ったサービスの店だ。そして次はAV女優の仕事。そしてホテトル、いわゆるデートクラブである。その後は愛人業、SM、ソープランド等の経験もあるのだが、このホテトル入りのときの気持ちは、今でも忘れることができない。

 ホテトル、に入るとき、私は迷いを感じていた。「本番」といわれるセックス行為に抵抗があったのだ。「本番」が嫌で、AVの仕事も「疑似本番」にさせてもらっていたほどである。
「風俗嬢にはなったけれど本番はしていない、本番までしてしまったら、一生恋愛なんてできない」それが当時の私のかんがえであり、ちっぽけな誇りだった。心のどこかに普通の恋人たちへの憧れと思いがあった。「好きな人ができたら、一緒に手をつないで歩いたり、寄り添って海を眺めたり、笑いながら映画を観たり…」。そんな平凡な幸せに憧れ、その想いを実現させる唯一の希望が「本番はしない」というけじめだと思っていた。

 しかし、夢は男もなくし、原因不明の疲労感と倦怠感に悩まされていた私が選んだものはお金だった。そのお金という目的のために、あれほど嫌だった本番に目をつぶった。
 ホテトルの仕事で初めてついたお客。仕事を終え、娼婦を演じられる自分に気付いたときに感じたのはこんなきもちだった。「なんだ、愛している人でなくてもできるんじゃん」。そして私は決心した。「もう男の人を本気で好きになるのは止めよう」。

 それまでの性経験が少ないからこそ風俗の世界に入れたのだと思っている。多分、多かったら、入ることに抵抗を覚え、すんなりできなかったと思う。
 それから私は風俗にどっぷり浸かり、男を見下すことを覚えた。見下すことができることができるから、風俗で働くことが楽しかったのかもしれない。

ブスでモテなかった私が、たくさんの男に指名される。それがどんどんエスカレートして驕(おご)りへと変わっていった。自分を奇麗に着飾るのが楽しくなり、自分の身体を見せるのが楽しくなった。そして、贅沢(ぜいたく)になった己を知らない私は、本当に自分の事を好きになってくれた人が欲しくなった。つまり、「彼氏」が欲しくなったのだ。

 そんな時に現れたのが、「彼」だった。それまでの私は「どんなことがあっても、お客とかなんて付き合わない」と決めていた。それが風俗嬢としてのプライドと思っていた。自分が見下している「お客」と付き合うのは、女としてのプライドが許さない。しかし、気がつけばそこに彼のおいていった名刺を握りしめ、「彼」に電話している私がいた。

 その彼は私が初めて「自分から行った」男だった。今思い返すと風俗で働くために、仕事に向かうための支えが欲しかったのかもしれない。それに、全て話せる人が欲しかった。そのときの私は、仲の良い友達にも、風俗で働いていることを隠していた。どんなに仕事で嫌な目にあっても相談できなかった、それがストレスになり、必然的に同僚としか喋らなくなる。

それの積み重ねと、注射の道具としての毎日に、ほとほと疲れていた。だから、彼に惹かれたのかもしれない。最初から、出会いから、風俗嬢として逢っているのだから、仕事のと隠さなくていい、そこが気楽でよかった。もう風俗嬢としてのプライドはなかった。一人の女として、こころの渇きを満たすことに必死だった。

 そんな「彼」との生活は長い。「彼」も当然のようにヒモになった。そして、私も今では「彼女」というような、女であることを意識した立場ではない。

もう家族。家族よりも家族のヒモ。どんな身内よりも、私という人間を知っていて理解してくれているヒモ。くっ付いたり離れたり、で、結局八年いるかな? それだけ一緒にいると当然、日常の性生活は少なくなっていく。「家族」だから、だんだん照れくさくなってきたのだ。

 それでも私は一緒に暮らしている。まあ、そのほうがラクだからなんだけど。ヒモの前での私は、とても子供、駄々をこねたり、甘えたり‥‥。それは子供ときに親に甘えられなかった反動でもあろう。

 その男は何度も浮気をした。お互いに違う相手と同棲していた時期もある。しかし、いくら怒りを覚えてもそのつど、私はなんだかんだ言って彼を受け入れていき、また一緒に暮らし始める。普通の女だったら「冗談じゃない!」と、そんな男とはとっくに別れていると思っているだろう。

でも、自信がなかった。なぜなら、私は普通の女の人よりも劣っていると思っているからだ。私は風俗で働いていたという過去がある。そんな過去を持っている女を純粋に好きになってくれる男など貴重だし、やはり、最後には許せないで離れていってしまうのが普通だ。許したら許したで、その男に疑問を持ってしまうし。複雑な心境の中、私は彼と一緒に今もいる。なぜなのか、自分でもよく分からないが、結婚もせず彼と別れられないでいる。

 ある時、私は婚姻届にサインして判を押して、彼に突きつけたことがある。私は度重なる彼の浮気、別れ、そしてまた同居、の繰り返しに疲れていてた、だから、彼の本気の気持ちを確かめたかった。彼は自分の気持ちをめったに話さないタイプの男だったから、私のほうから切り出したほうがいい、そう思って行動だった。
 
だが、彼ははにかみながらその紙を受け取っただけだ。婚姻届は今はどこにいってしまったのか解らない。女としてのプイラドを全部捨てて取った行動は無駄に終わった。だからかもしれない。私が「イク」ことを愛情の確認事項として考えてしまっているのは。それ以外、私には思いつかない。他に方法が残されていない気がする。

 私にとっての彼氏とは「一人でいるのが寂しいから一緒にいるだけ」で「その人を本当に愛してはいなのではないか」と、いつも考えてしまう。そう思いたくない。それが自分の本音だったら‥‥。いつも辛いことから目を背ける。私の居場所はここじゃなかったのか。

やっぱり「家族」では「彼氏」にはなれない。恋愛の対象にはなりえないか。もしかしたら、私が東京とい場所に来たのは「自分を理解してくれる人」が欲しかっただけかも知れない。もっと言えば、家族が欲しかっただけ。本当の家族には失礼なのだが。

 私の心の中には、複雑な感情がある。それが異常な形で絡み合い、くねり、よじれているのではないか。

 幼い頃にされた性的悪戯(いたずら)、騙されてはめられたセックス、乱暴なレイプ、恋人との変態的なセックス、金で買われた売女(ばいた)としてのセックス、金のたに人前で演じるセックス‥‥。

  レイプされた記憶があるのに、その反動のように訪れる乱暴なセックスへの願望。彼との行為中に起きる乳首を強く噛(か)んでほしいという衝動は、異常なほどの乳首への嫌悪感の裏側に潜むものなのか。

 そして「年上の男性に甘えたい」というファザーコンプレックスにも似た感情の裏にある、ヒモを甘やかす女の心。一人ぼっちになりたくないとう気持ちの裏にある、執拗なまでのヒモへの執着。

 私は男に「貢ぐ」のが好きなのではない。他人に貢ぐほどのお金を持っていない。私も働くのが嫌いだし、当然、生活に余裕などない。

でも、私は男にいつも貢いでしまう、何故だろう? それは「私は人に愛される資格などない」、と思っているからだろうか。そしてまた「人を愛する資格もない」とも思っている。理由は「私は風俗嬢だった」ということだ。

 だから、人を、男を、好きになると「自分と一緒の時間を使ってくれるのだから」と、その時間を過ごすために必要なお金を出してしまう。それを何度も繰り返すと、相手は働かなくなり、なんにもしなくなる。

そして、私は、自分が苦しなったときだけ甘え、じゃまになると辛くあたる。自分の勝手。
 そう言う男を、自分は果たして本当に愛しているのだろうか? そう思うのは、いつもセックスの後だ。イカない。

何度やっても、何年たってもイカない…‥。その男を愛してる実感が欲しかった。他の男とは違う、他の男とは別格だ、という実感が欲しかった。なんでイクことに執着するのか。他の物で実感をわかせられるものを私は知らないからだと思う。

 もしかしたら。私は贅沢になりすぎたのかもしれない。愛した男と肌を合わせているだけで幸せな気分になれたのに、今ではイカないから愛されている実感がない、などとほざいている。でも、それが私の正直な気持ちだからしょうがない。

 人に好かれている、愛されている、愛している。という実感を他人は何処で得ているのだろう? 私には、いまいちよく分からない。小さい頃に愛情を注がれる環境で育っていないせいなのか、人に対する愛情の与え方が分かっていない。人を傷つけることが平気でできるのもそのせいかもしれない。反対に愛情に飢えているからこそ、風俗に入ったのかもしれない。
 
 現在は風俗を辞め、普通の仕事、つまり体を使わない仕事に就いた。確かに、社会的には後ろめたい仕事ではなくなったが、なぜか今でも自分にウソをついて生活しているように思えてならない。
つまり、自分の欲望に背を向けて生きているような気がする。

 風俗の仕事をしていた当時よりも、十分の一の収入になった今が、本来の人間らしい生活なのだと自分に言い聞かせてきた。自分の身体を駆使せず、洋服を着て仕事をしてお金を貰う。それが、真っ当なお金の稼ぎかた。だから、今は昔より遥かにいい生活を送っているのだと思っている。それが幸せな生活、な、はずだった。

やはり、貧乏は嫌なものだ。お金がないため欲しい物を我慢するのが嫌だ。借金に追われ、仕事に明け暮れて、仕事しかない毎日を送っていた親。そんな姿しか見たことがない私は、仕事ばっかりの生活を送りたくない。それが私の中に根強く残っているからかもしれない。
 
 そうやって考えていくと、生活するうえでどうせ我慢するところが出てくるのなら、仕事でのほうが我慢できる。仕事をしてお金を稼ぐのは、自分の欲望のためなのだ。だから、今の若い子が風俗に入るのがよくわかる。どうせどんな仕事をしても我慢しなくてはいけない部分は絶対に出てくるのだ。できるだけ多くのお金を得た方がいい。だからかもしれない。

私が風俗に今でも戻りたい、と思っているのは、現実的には無理だとわかってはいても。
 愛する人とだけセックスをしたいという願望を持ちながら、金のため、生活のためにと愛のないセックスを続けてこられた自分。人にうまく頼ることができない。甘えることができない。

 少し前まで、私は人に「ありがとう」が上手く言えなかった。もちろんそんな言葉、営業のなかではいくらでも言えるのだけど。心からの「ありがとう」が言えない。なぜなら、照れくさくて、恥ずかしいから。自分の素直な気持ちを言葉で言うことをが、私にとってものすごく恥ずかしいかしいことなのだ。極端な話、裸を見せるよりも恥ずかしい行為。

それほどまで、他人に自分をみせるのが恥ずかしい。そして未だに、セックスよりオナニーをするときが一番落ち着く。オナニーではイク。やっぱり、他人を受け入れられない自分がそこにいる。しかし、他人が離れていくのがすごく怖い私も、いる。孤独は好きだけど、孤立は好きじゃないから。

 私は一生他人に自分を見せないまま、一生他人を自分の中に入れないまま、終わるのかな。そうなると、私はずっと「イカない女」なのだろうか。完